俺は父を飛び越してその女性に話しかけた。
「それ、お前の人生に関係あるか?」
「えっ?」
父からの反撃は、意外だった。
「この人は幸子さんっつうんだけど、幸子さんが翔太の人生に関係あるのか、って聞いてんの」
「いや……」確かに関係がない。だが、関係がないことも関係がない。
「関係ねえだろ?だったら関係ないだろ」という父の言い分も関係ないのが今の状況である。
「ない、ですね。ええ。ございません」
「だろ」
「ではお伺いしますが、なぜその関係のない女性が他人の家に上り込んでいるのでしょうか?」
俺はその女性……幸子を真正面から見て挨拶をした。
「初めまして。幸子さん?」
俺はトクホの黒烏龍茶を幸子にぐいぐい押し付けた。
「幸子さん。お茶でも飲みますか?」
幸子は嫌がるように首を横に振る。
「ではお風呂でも入っていきますか?ユニットバスなもので狭いですけど」
「幸子さんに八つ当たりするなよ」
父が弱々しく反論した。だが俺は止めない。
「では幸子さん。ベッドでお休みになられますか」
と、ベッドを見ると、ベッドにはテーブルの上にあったゲームやくしや充電器が瞬間移動したようにテーブルの上にあったそのままの形で置かれていた。
「まあ待て待て」
父親が腰を浮かせた。
「幸子さんは……俺が一人でここ来るのがちょっとあれだったんでちょっと付き合ってもらっただけだ。ね。臼井幸子さん」
幸子は、何かを俺に訴えるような目をした。たぶん「うすいさちこ」という名前に何らかの反応を示して欲しいのだろうと推測されたが、俺は完全無視し、なかなか減らない満腹弁当のコロッケに箸を伸ばした。
「それ、うまいか?」
「別に」
「だよなあ」
「いや、うまいです。ふつうに」
「へえ。普通にうまいのか。うまいのか普通なのかよくわからねえな」
父は、満腹弁当を食べたそうにしていたが、もちろん俺には満腹弁当を父にも幸子にも分けてあげるつもりはない。
「母さん、飯は作ってくれないのか」