注文を取って伝票へと書き込むと、レジ脇に備えてある伝票の束へとそれを挟み込んでいる。店長はその束を軽くパラリと再確認するように捲っていた。
「あっ」とその時、店長が叫んだ。
何かに気付いた店長。クスクスと含み笑いをしながら、僕の方へと戻って来ていた。
「どうしたんですか?」
突然の店長の反応に、気になって僕は訊いていた。
「いやゃ……わかりました、わかりましたよ。彼女が演奏した理由が」
「え?」
「彼女を含めて、来客の数がお客さんで“二十人目”だったんですよ。可笑しいなって私も思ったんですよねぇ。彼女、ずっと開店から居座っていたから……」と店長は笑いながら言っている。
「えっ、そ、それだけの理由……」
「ええ。何で今日なのかは分かりませんが。お客さんを選んだのは多分、それで」
「それだけですかね?」
「ええ、絶対に」
店長は笑顔で言い切っていた。
僕だからと言う理由ではなく、偶々だったいう事。それにやや落胆せずにはいられなかった。
少々、都合の良すぎる想いだったのは間違いではないが。
しかし彼女の演奏が終わった直後から――僕の中で始まってしまった序曲のような鼓動。
どうしてくれるんだ、と思いながらも。
どう見ても年下の彼女に逢いたいが為に、暫く“この店に通い続けるだろうな”と、自分でその序曲にタイトルを付けているのだった。