小説

『カサジゾウ、的な何か』柿ノ木コジロー(『笠地蔵』)

 寒いし、早く休もうか、と床に入ってずいぶん経った頃です。

 じいさんはふと、目がさめました。
 りゃりーん、りゅりーん
 どこからか、不思議な音が近づいてきた気がしたのです。
 おいばあさん、なんか……と隣でいびきをかいているばあさんをゆり起してみましたが、いっこうに起きる様子はありません。と、そのうち
「笠くれたじいさん、どこにおるー」
「笠くれたじいさん、どこにおるー」
 何やら歌声が聞こえてまいります。
 じいさんは怖くなって、じっと固まったまま、耳だけぴんと野兎のように立てておりました。
 そのうちに、歌声が戸口の外にまで近づいて
「おおここだここだ」
 そんな声まで聞こえてまいりました。
 そこでじいさん、はっと気づきました。

 これそのまんま、カサジゾウじゃん?
 カサジゾウ的な、何か??
 ということは……なんかたくさん運んできてくれた、とか?

 じいさん、少しばかり困惑します。
 たんだふたりぎりで住んでいるゆえ、特に足りぬものはなかったのです。
 それに米や味噌や野菜なぞ、たんと置いて行かれても処分に困ります。限界集落とも言えるこの地では、分け与える人びともほとんどおりません。
 まさか、ここから大声で叫んで「現金を!」と言うのはあまりにも分不相応かという気もします。
 手慰みに編んだ笠をかけてきただけですし、売れれば儲けもんという下心がずっとあったのも事実ですし、途中で捨てようと思ったものですし。

 じいさんが身を揉んで悩んでいる間にも、外の声ががやがやと騒いでいるのが、聞こえてきました。
「ああ、気が済んだ」
「見に来られて、良かったよかった」
 特に何かを置いたわけでもなさそうです。じいさんの頭の中わずかに、それでも何か置いていかないのかという思いが束の間よぎりました。

 いやいやいや、それでいい。じいさんはひとりでぶんぶんと頭を振りました。
 たたりも怖いし、とにかく静かに地蔵さまの帰られるのを待とう。
 じいさんは更に身をかがめ、じっと息をひそめます。

「寝てるらしいしな」

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