小説

『粗忽なガーヤ』佐藤邦彦(『粗忽長屋』)

 「睡眠は必要なんですね」「あっ、やめろ!俺よ、アクセスを切断する気だな!」
 「やはり俺だ!その通り。兄ぃ、悪いがいったん切断させてもらうぜ」
「なんか、ややこしい事になってるみてえだな」
「それとな、俺よ。お前の直脳通話は間もなく使えなくなるぜ。どっちも俺だからアクセスも二カ所になるんで、そっちの俺が目覚めたら直脳通話の機能をオフにすると博士が云ってたからな」
 「なんだと!おい、俺、ちょっと待て!」「博士!直脳は切断しないで下さい!」
 「俺だから分かるだろ?待たねえよっと」
 「おお!そうじゃった。忘れとった。お前の直脳機能をオフにせんとな。はい。ポチッと」
 博士が手に握ったスイッチのボタンをひとつ押します。
 「博士!」「俺!八五郎の兄ぃ!もしもし。もしもーし。駄目だまったく繋がらねえ」
 「博士!あっしの直脳通話をオフにしちまいやしたね⁉」
 「うむ。お前たちが二人で応答したら掛けてきた者が驚くでな」
 「博士!もう一度アクセスを開いちゃもらいやせんか。今あっしと通話中だったもんで」
 「それは出来ん。お前が直脳通話を使える様にしてくれと頼んでくるじゃろうから、絶対に拒否してくれと熊五郎に頼まれておるでな。さすがは自分のことじゃ。よくわかっておるようじゃわい」
 「博士…。あっしが大人しく頼んでいるうちに言う事をきいた方がいいと思いやすぜ。この熊五郎、少々無茶をしやすぜ」
 「よいか。お前は熊五郎ではなく熊五郎´じゃ」
 「そんなこたぁ関係ねえ!いいかい博士よ、痛い目見たくなかったら俺の云う通りにしろい!」
 熊五郎´凄みます。
 「説明の続きじゃが、その肉体の身体能力というか、腕力などは三歳児程度になっとるから気を付けるんじゃぞ」
 「なっ!なんだと?俺の腕力は三歳児程度なのか…。それじゃ、今あんたに殴りかかったら…」
 「無論返り討ちじゃ。それにさっき云ったじゃろ。お前を停止させるスイッチも儂の手の中じゃ」
 こうして熊五郎´充電の都合もあり、ガーヤ・ングンダラ博士の研究室から毎日会社へと通うことと相成ったので御座います。

 こうして20日間が過ぎ、いよいよ本日、熊五郎が火星から帰ってくるという日で御座います。この日はちょうど会社も休みで熊五郎´と博士が二人で熊五郎を待っております。
 「そろそろ熊五郎がやってくる時間じゃな」
 「あっしには一言文句を云わなきゃ気が済みませんやね。あっしとしましては」
 「文句もよいが、熊五郎が帰ってきたら、まずはお前のこの20日間の記憶を熊五郎に流し込むからの。そうすれば20日間のお前の記憶も熊五郎のものとなるわけじゃ」

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