小説

『ボックス』イワタツヨシ(『パンドラの箱』)

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 時期に、この星は太陽に飲み込まれてしまう。そういう運命にある。長い間、この星の人間はその危機と向きあい生きてきた。
 希望と僅かな可能性を信じ、一部の人間は、移住が可能な別の星を宇宙に探しもとめる。
 やがて彼らはその存在を確認する。太陽の反対側にある、地球という星。しばらく、彼らは地球の偵察を続ける。地球について、様々なことが分かってくる。

「地球移住計画」の議論における論点は、時期と方法。
 この星の人間は、地球人の「受けいれ」を望んでいた。少なくとも、誰も「戦争」は望まなかった。この星は地球と比較して、人間の知能も高く、科学技術水準も高い。しかし彼らはこれまでに戦争を経験したことがない。この星には、現在にも過去にも「悪人」が一人もいない。
 あるときこの星で、科学者の一人が、「地球では近い未来に大きな気候変動が起こる」と推測する。それは、長期に亘って寒冷化する氷河期の再到来。
 そして彼らは、「自分たちの高度な科学技術を駆使し、長期寒冷化の環境から人々の暮らしを守るための環境をつくり出せば、地球人から恩恵を受けられる」と考え、地球に氷河期が到来するときを移住する時期に設定し、「高度な科学が統合された町づくり」と「アンドロイドの製造」の計画を進めていく。

 移住計画の議論における論点は、他にもあった。「地球人との共存の可否について」もし、この星の人間が産んだ卵が孵化するまでの間に地球人と接触した場合、どうなるのか……。はやり、共存は難しいのか。

 初めて、この星の人間が一人、地球に降りたつ。その男の名は、カーボネル。彼も、平和的に移住が行われ、この星の人間が地球人と地球で共存する未来を望んでいた。
 カーボネルは環境づくりを進める傍ら、この星の人間の反対を押しきり、実験として、まず初めに、この星で産まれて九十年が経過していた卵を二つ、地球に持ちこむ。そして、それぞれを地球の「善人」と「悪人」に所持させた。  後にその卵から孵化したのがリーリエ(後にこの星のリーダーとなる)とジーリョ。
 カーボネルは、その二人が誕生した後、「実験は良い結果をもたらした。我々星の人間が地球上で誕生し、地球人と共存していくことは可能だ」と伝えている。
 そしてカーボネルは次に、当時この星で産まれたばかりの卵をさらに百以上、地球に持ちこんだ。

「悪人」のもとで誕生したジーリョは、その本性を偽り、アンドロイド製造の過程で、密かに、あるマイクロチップをアンドロイドに組みいれていた。そしてカーボネルを殺した。

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