小説

『ボックス』イワタツヨシ(『パンドラの箱』)

5
 十九の箱、四十八の人間、彼らが卵から孵化する前から完成されていた町……。その世界における不確かな物事は数知れないが、ジェリーが、その中でも最も謎だ、と思うことは、この世界にいる四十八の人間が皆、同じ年齢ということだった。

 しかし一年前、その世界で初めて新しい命が誕生した。エミリーが妊娠し、「ナンバーフォー」の箱で卵を産んだのだ。父親はドミニク。
「リストの四十八番目に入れよう」と、そこに駆けつけていた一人が言うと、もう一人がそれを指摘するように、「子どもが卵から孵化するのは百年後だよ」と言った。
 すると、また別の一人が言った。「他の人間も卵を産んでおかないと、この子どもが孵化した時代には一人きりになってしまうよ」

 けれどその僅か三か月後に悲劇が起きた。箱の連結により入ってきた悪い人間たちがエミリーの卵を奪っていったのだ。

6
 四十八人の名前と、それを記録した日時が記されたリストは、ただそれだけのものだ。現時点における厳密な数字を示しているものではない。ジェリーにも、別れてからもうしばらく再会できていない人間が何人もいた。
 いつどことどこが連結するか予測のできない十九の箱の世界で暮らすというのはそういうことだ。例えば、誰かはどこかの箱の中でもう生きていないかもしれないし、誰かは箱の外に出ているかもしれない。

 もし箱の外にも世界があるなら、その世界を見てみたい、と誰もが思っていた。
 ベンジャミン、ジェイ、ウェイドもその一人だ。しかし三人の考え方ややり方は卑劣、且つ暴力的で、多くの人間から非難され、恐れられていた。
 例えば、新たに箱と人間が見つかると、その情報を耳に入れた彼らはその人間を探しまわった。そして捕まえて尋問し、その人間が知っていることを全て聞きだそうとした。「ナンバーサーティーン」の箱で見つかったアマウリーも、彼らに捕まって酷い怪我を負わされた一人だった。
 彼らに賛同する人間もいる。初めは三人だけだったが、いつしか仲間を従えていた。そのグループは大体十人程度で構成され、何人ずつかに別れて行動していた。
 その世界の人間たちが話し合いで決めたルールを守らず、彼らは自分たちが有益になるようなルールを勝手につくった。例えば、新たに箱と人間を見つけた場合、見つけた人間はいち早く彼らに報告しなければならなかった。そのルールに背けば、報告を怠ったとして、後でその人間も酷い目に遭わされることになった。

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