小説

『ボックス』イワタツヨシ(『パンドラの箱』)

「僕はジェリー。彼はクリス。歳は二人とも……」
 しかし彼らはジェリーの話を聞いていなかった。束の間、そこにいた全員が黙っていた。
「嘘でしょう」と、彼らの一人が口を開いた。
「まずいな」と別の一人が言い、「今日は早いよ」とまた別の一人が言った。
 再び、「揺れ」が始まっていた。
 その揺れに、彼らは顔色を変え、落ち着きがなくなっていた。まるで、目の前にいる二人のことなど、もうどうでもいいように。
 そうして、彼らはすぐにどこかへ行ってしまった。「揺れ」と共に突然やって来て去っていった嵐のように。

 いったんどこかへ行ってしまった彼らだったが、またしばらくしてジェリーとクリスのところに戻ってきた。
「戻ろうとしたが間に合わなかった」と一人が言った。

 それから、ジェリーやクリスたちは彼らの話を聞いた。そしてこのとき初めて、「箱の連結」のことを知った。この世界には同じような箱が幾つも存在し、他にも人間がいるということ。どの箱にも、上下以外の四面の壁に人間が通れるほどの扉があり、揺れが起きて箱が連結したとき、四面の壁にあるいずれかの扉が出現するということ。
 但し、箱が連結している時間の間隔はときにより異なり不明瞭、故に元の箱に戻れなくなることもあるということ。そのときの六人のように。

 それが、別の箱の人間と関わりを持った最初の出来事。次の連結では、ジェリーたちも扉を見つけて、初めて別の箱に移った。
「この世界には、一体いくつの箱があり、どれだけの人間がいるのか」そう考えるたび、ジェリーは興奮して胸が高鳴った。
 やがて、彼らは箱に番号をふってつけた。ジェリーとクリスが最初にいたのは「ナンバーフォー」の箱、あの六人がフォーに入ってくる前にいたのは「ナンバーエイト」の箱、というように。

 最近では一つ、半年前に箱が見つかっている。その「ナンバーナインティーン」の箱にいた一人の男の名前がリストの四十八番目に記されていた。

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