彼にとって、勿論、初めて目にするものばかりだったが、彼はそれらを示す言葉の意味を知っていた。太陽は沈みつつある。もう時期、空は茜色に染まるだろう。そして夜の闇が訪れる。それも知っていた。あるいは不意に思い出したように。奇妙なことに、この場所が懐かしい、とも思えた。
突然、涙がこぼれた。それを誘引するものが感動か、不安か、郷愁か、彼自身にも分からなかった。とにかく、彼は酷く混乱していた。
さっきまでは、レインに会ったら聞いてみたいことが山のようにあったのに、どうでもいい、と今は思えた。
ジェリーはその場所に留まり、再びレインが目の前の建物から出てくるのを待つことにした。
その間、建物の前の通りを大勢の人間が行き交った。子ども、大人、年寄り。この世界には様々な世代の人間がいるようだ。
10
夜が訪れた。
ようやくレインが目の前の建物から出てきた。ジェリーは丘を駆け下りて、通りを渡り、レインに歩み寄っていった。
前から歩いてくるジェリーにレインが気付いた。
ジェリーが思うに、自分がここにいることは、おそらく許されることではなかった。長い間、あの箱の中に閉じこめられていたわけだから。それでこうしてここで彼の目の前に現れたとき、彼がどういう反応を見せるのか、ジェリーには想像ができなかった。
「やあ、レイン」
「ジェリー、どうしてここにいる?」
「ねえ、レイン。ここはどこ?」
「ここ? ここは」と、レインは答える。「惑星だよ。球体のかたちをしている。ここはその地上で、山があり、川があり、海がある。それから空と、自然の雲、太陽……」
「本物の太陽ならさっき見たよ」と、ジェリーはレインの話を途中で遮った。「ここで何をしているの?」
「これから話すことを誰にも喋らないと約束できる?」
「たぶん、できるよ」
そうして、レインはこんな話を始めた。