小説

『ボックス』イワタツヨシ(『パンドラの箱』)

 やはり、さっきの揺れは箱の連結だったのか。しかしその先に足を踏み入れると、そこは奇妙だった。草木が密生して壁のようになり、先の視界は完全に遮られていた。
 その後ジェリーは、恐怖や不安で気が引けてしまい、それ以上彼を追えなかった。

8
 再びレインが現れ、四度目に「ナンバーフォー」の箱を出ていくときも、ジェリーはレインを尾行した。
 前回と、彼の足取りは変わらない。幾つかの箱を経由して、人間が一人もいない箱にやって来る。それから彼は、おそらく、その「特別な箱」を自分で呼び寄せる。そして扉の奥へ消えていく。
 ジェリーも後を追う。今度は、もう戻らなかった。
 ジェリーは、扉からその特別な箱に入ると、目の前の草木をかき分け、レインが通った跡を確かめながら少しずつ進んだ。あとどれだけ進めば開かれた場所に出られるのか。しかし草木はどこまでも覆いつくしていた。
 百メートルくらい歩いて来ただろうか。ジェリーは壁に突き当たった。初めの扉からずっと真っすぐに歩いて来たはずだから、とジェリーは考える。僕たちがいた箱よりもだいぶ小さな箱だ。それに、ここには町がつくられていないようだ。
 レインはどこだろうか。彼が通った跡を確かめながら壁に沿って歩いていると、ジェリーは壁に何かを見つけた。それは扉だったが、初め彼にはそれが、町の建物でも見たことがある防災倉庫の扉のように思えた。
 ジェリーは、足元の高さの取手をつかんで扉を開け、腰をかがめてその中をうかがうが、中は真っ暗でよく分からない。それから彼は両ひざをつき、四つ這いになってゆっくりとその扉をくぐった。

 暗順応していくと、らせん階段が見えた。しばらくジェリーは動かずにそこで身を潜め、コツコツと響く足音を聞いていた。きっとレインの足音だろう。その階段はひたすら上に伸びているようだった。

9
 らせん階段を登りきると、手の届く高さの天井に取手のついた鉄板が見えた。鉄板を上へ押しあげる。その途端、暑さが、まるでねっとりとまとわりつくように襲ってきた。
 そこは、箱の外の世界だった。深い森の中のようだ。
 レインはだいぶ先を行ってしまっただろう。ジェリーはレインの後を追ってその森を駆けた。
 森を抜けて、小高い丘の上に出た。そこから町を見渡せた。目の前には、ブロック塀に囲われた広大な敷地が広がっている。何かの施設のようだ。彼はレインがその施設の建物へ入っていくのを見た。
 ジェリーはそこから見上げた。そこには、高くて青い空があり、雲があり、太陽があった。

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