小説

『ボックス』イワタツヨシ(『パンドラの箱』)

 彼らは盗みもする。他の人間がつくった作物を盗んだ。それから幾つかの箱を掌握した。エミリーから卵を奪ったのも彼らだった。

 リストの四十八番目になった男、レインは、運良く彼らの尋問を受けずに済んでいた。
 もう半年以上、ベンジャミン、ジェイ、ウェイドたちを誰も目にしていなかった。

7
 リストに名前を記した後、レインは少しの間、「ナンバーフォー」の箱に留まっていた。
 その頃、そこにはエミリー、ドミニクの他に、ルシア、ジェリー、クリス、アマウリーがいた。
 レインに関しては出会ってまだ間もなかったが、ジェリーは、彼と会った瞬間に、まるで昔に会ったことがあるような、何か親しみのようなものを感じていた。そして、そう感じていたのはジェリーだけではないようだった。

 三日足らずで、レインは「ナンバーフォー」の箱を出ていった。それから半年の間に、三度、「ナンバーフォー」の箱に戻った。
 三度目に出ていくとき、ジェリーはレインには内緒で彼の後をつけた。
 一年前にレインが見つかったとき、彼は「それまでずっと一人きりだったし、自分がいた箱は、一度も揺れたことさえなかった」と言っていたが、ジェリーは、本当は何かを隠しているかもしれない、と思っていた。

「ナンバーフォー」の箱を出たレインは、「セブン」と「イレブン」の箱を経由して、「ナンバーツー」の箱に着いていた。
 ナンバーツーの箱には、そのときは人間が一人も暮らしていないようだった。レインはそこで一晩を過ごした。翌朝、建物から出てきた彼はどこかへ向かって歩きはじめた。
 一度その途中で立ち止まり、辺りを見回してから、右手で自分の左腕を掴んで(ジェリーにはそう見えた)、再び歩きはじめた。それから間もなく、箱が突然、激しく揺れたせいで、ジェリーは転倒した。それは、箱に何か巨大なものがぶつかってきたような強い衝撃だった。
「箱の連結?」と、ジェリーは呟いたが、いつもの「揺れ」とは度合いが違った。
 しかしレインは、何もなかったように歩きつづけていた。見失わないように、とジェリーは立ちあがって彼を追いかけた。
 レインが真っすぐ向かった先には、扉があった。レインは一度もその足を止めることなく、その奥へ吸い込まれるようにして消えていった。

 ジェリーも彼の後を追った。

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