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まさか、これから転職活動宣言するわけにもいかないだろうなぁ、と夢の中で身悶えしていると、
「パパ、ママ」
どこからか、声が聞こえてきた。
「パパ、ママ」
二人とも、完全に、寝てしまっていた。元ダンは涎、リクミは鼻水まで垂らして、寝ぼけまなこを開いた。
「パパ、ママ、起きた?」
アユムが舞台のマジシャンのような恰好で、ビロードの布が被さった腰高の台の傍らに立っている。これは夢なのか。隣には真っ黒に焼けた肌の女の子も一緒だ。
「時間がかかったけど、そのぶん超大作」
なんのことかわからないまま、アイマスクのような仮面をした息子を見つめた。
「ア、ア、アユムくん」と元ダンがくん付けの言葉を漏らす。
「どうしちゃったの」とリクミ。
「僕たちの街ができたのさ」
そう言って、布の上部を指先でつまむと、しばらく静止状態でこちらを見据える。まるでドラムロールでも聞こえてきそうだ。
「じゃあ、いくよ」
取り払われた布の向こうには、わたしたちの街があった。
「ここではママもパパと一緒に暮らしているんだよ」
※
しばらくもぞもぞしたあとで、リクミは爺を上目遣いで力強く見つめた。昼下がりのデニーズには俯いてスマフォをいじっている浪人生っぽい若者と、年金暮らし世代の老人が数人で角を取り、真ん中エリアはベビーカーをテーブルの横につけた主婦たちで、静かな会話が気だるく投げやりに交わされる。爺は渋皮の栗モンブラン、リクミは夕張メロン味のシャーベットを目の前に対峙している。
「爺は知ってたんですか」
「なにが」
「ジオラマのこと」
駒を手に取り、掌にいれて撫で転がしながら、
「知っていた。アユムくんに口止めされたけど、されなくても言わなかったよ」
「どうして」
「リクミさんのことを思ったんだよ」
「・・・・」