小説

『SFA‐20 ~立ち枯れた脳~』 蟻目柊司【「20」にまつわる物語】(『ピノッキオの冒険』)

 ドローンのやつ、しつこく追って来やがる。俺は構わずに走り続けた。錆びついた関節がきしんで音を立てる。過重運動を告げる腹部の警告ランプが点滅を始める。
「告知事項があります。SFA‐20。指示に従いなさい」
 死刑宣告など聞きたくはない。俺は動かない右腕をもぎ取った。こんな時のために、仕込んでおいたものがある。
 この埋立地には化学系廃棄物も多く流れ込んでくる。俺は日々の作業の合間に、硝酸や硫酸などの薬品を片っ端からかき集めていた。他にも、廃車に残されたガソリン、使い捨てライター、電池、銅線、使えそうな物はすべて隠し持った。それで作り上げたのが、この右腕型手榴弾だ。
 かつて人間だった頃、俺はただぼんやりと暇を持て余し、ジャンルを問わず本ばかり読み漁っていた。その知識が今になって活きるとは。
「SFA‐20、貴機には管理棟への出頭命令が出ています」
 俺は右手の甲にくくりつけていた乾電池を外した。これを腕の付け根に差し込めば、およそ三秒で内部の銅線がショートし発火する。起爆装置だ。所詮は素人の手による廃材の寄せ集め、まともに爆発するかは分からない。あるいは暴発して俺自身が木っ端微塵になるかもしれない。でも、もう他に手はないんだ。待ってろ、久美子。俺は必ず還る。
 乾電池をセット。三、二……
 くたばれ! 俺は人間だ。機械の指図なんか受けない!
 俺は心の中でそう叫び、全身全霊で右腕を投げた。弧を描いて飛んだ腕はドローンに直撃し、一瞬の間を置いて激しく炸裂した。火を吹きながらドローンが俺の足元へ墜落する。
「貴機に……は……ジジッ……出頭命令が……」
 壊れてもなお俺を捕まえようとするとは、機械というのは本当に恐ろしい。
「帰還でき…ジジッ……ます……家に……ジッ……」
 なに?
「ジジッ……田村久美子氏より……捜索…ジッ……願いが……」
 田村久美子? 久美子のことか? 田村ってなんだ? どうして俺の苗字を?
「家に還りなさい……SFA……20……いえ…悠介……」
 ドローンは煙を上げ、完全に停止した。
 慌てて俺はドローンを揺さぶった。どう言うことだ? 頼む、答えてくれ! 久美子がどうしたって言うんだ。
 突然、背後から警備用アンドロイドに捕らえられ、俺は強制シャットダウンされて意識を失った。

「悠介? ねえ悠介。 分かる?」
 俺はゆっくりとまぶたを開いた。

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