小説

『桃太郎と桃子』斉藤高哉【「20」にまつわる物語】(『桃太郎』)

「雉が一番かっこよかった」
 それは何より。
 身体を動かしたい、と桃太郎が言うので、一駅手前で降りて歩くことにした。
 空は茜色だけど、陽はまだ沈んでいない。わたしたちは駅前のコンビニでビールとつまみを買い、河川敷に降りてベンチに座った。丁度、桃を拾った辺りだ。
 野球用のグラウンドでは、小学生ぐらいの男の子と父親らしき人がキャッチボールをしていた。わたしはビールのロング缶を傾けながら、行ったり来たりしているボールや、夕日を受けてキラキラ輝く水面を眺めた。隣の桃太郎も、大体同じだったと思う。
「平和だ」つい声に出して言ってしまった。けど、言わずにはおけなかった。こんな平和な夕暮れ、次はいつ味わえるかわからない。出来るうちに謳歌しなければ。
「平和か」と、桃太郎もビールを呷る。喉を鳴らして飲んだかと思うと、小さくゲップしたりもする。「職探しはどうだ?」
「現実に戻すなよ」言いながらも、悪い気はしない。「不調だよ。全然ダメ」
「そうか」それだけ言って、彼はまた飲む。
「慰めてくれないのかよ」
「慰めてほしいのかよ。おれに慰められるって、結構アレだぞ。自分で言うのも何だけど」
「自覚はあるのか」
「そこまで無神経じゃないぞ、おれは」
「ヒモ太郎のくせに」わたしは言って、自分で笑う。
「それ、気に入ってるみたいだけど面白くないぞ」
 そう言われても、わたしは笑い続ける。
「まあ、あれだな」と、桃太郎。「そのうちどうにかなるだろ」
「他人事だな」わたしはビールを飲んだ。
 足元にボールが転がってきた。「すいませーん」とさっきの父親らしき人が手を上げていた。わたしはボールを拾い、そちらへ向けて投げた――つもりだった。
「あーあ」桃太郎が言いながら、腰を上げた。「どこ投げてんの」
 彼は小走りで駆けて行った。ススキの繁る叢へ分け入っていく。
 しばらくして、ボールだけが出てきた。わたしはそれを持ち主に届け、ベンチに戻った。桃太郎はそれから更に経ってから戻ってきた。
「何やってたの?」
「いい物を見つけた」
「いい物?」

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