小説

『拝啓、20歳の私へ』公乃まつり【「20」にまつわる物語】

 何となくよそよそしくなって、練習の後のごはんに誰からも誘われなくなった。前はみんなでわいわい行っていたのに。
 そして今日のこれが決定打だ。同期達からのハブ。つまり、仲間はずれだ。飲みの席は信頼を作る場所、みたいに謳った会社が山ほどある例に漏れず、学生の間でも飲みの席は信頼を作り、そして友情を確認する場所だ。
 それを断っているならまだしも、連絡さえ来ていないという状況。いつもヘラヘラ笑っているばかりの私でも察する。空気は読める方だ。

 やめてしまおうか。
 指揮権を後輩に渡してしまえば、私はもう関係ない。
 けれども、PAのことやハーモニーのこと、これからやるかもしれない編曲のこと、私自身はまだまだ知りたいと思っている。
 それに、やっと繋がった糸だ。ここで私がつながりの基盤を作る前に放棄してしまえば、信頼を失い、しばらく先生がやってくることは無くなってしまうかもしれない。信頼は積み重ねで、今は積み重ねている最中だ。

 迷った気持ちのまま、何か本を読むような気持ちにもなれず、ぼんやりとネットサーフィンを始めた。
 ア・カペラの情報を紹介するブログ、就活情報を発信するブログ、映画情報、最近の時事の解説ブログ。
 ページを飛んでいると、ふと目に留まるタイトルがあった。
『成人を迎えた自分に伝えたい事。拝啓、20歳の私へ』

 今年、私は20歳になった。
 けれども、サークルに打ち込みたかったし、ちょうど合宿と成人式が重なった事もあって、私は夏に開かれる地元の成人式を欠席した。
 秋が深まると、前撮りの広告やカタログが贈られてくるようになったけれど、値段を見て辞退を決めた。来年は弟が大学生になってお金がかかるし、写真を撮る為だけに使うのはもったいないような気がしたからだ。
 私が成人式を欠席する旨を聞いて、さらに前撮りなどもしないことを知った母は少しだけ、残念そうな顔をしていた。父は自分も成人式に参加してないから、とあっさりとした対応だった。
 けれども20歳を迎えるということは式に出ていなくても、晴れ着を着ていなくても大きかった。お酒が堂々と飲めるし、パスポートも親の承諾なしに自分で申請する事が出来る。成人となる年、という自覚はあった。
 そんな当事者意識によって、私はその記事をクリックしていた。

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