小説

『拝啓、20歳の私へ』公乃まつり【「20」にまつわる物語】

「もしもーし。お久しぶりです!人づてに聞いたんだけど、大学選手権常連のW大から講師が来るって聞いて……イベント行っても大丈夫かな?」
 明るい声がチクチクと刺さる。
「……あのね。そのイベントは中止になりそうなの」
 中止になる、と言い切れなかったのは私の未練だ。中止にしたくない。
「えっ……どうして?先方の事情?」
「ううん……うちの大学の事情。場所を抑えていたんだけど、急遽使えなくなっちゃって。人数が収容できて機材もあるようなスタジオは急には抑えられなくて、これから先方に連絡するところだったの」
「……そうだったのか……」
 私はそれ以上の言葉が出てこなくて、しばらく黙った。彼も私に失望したのか、電話の向こうからの声が聞こえなくなる。
 沈黙が数秒続いた。たった数秒が何時間にも長く感じた。
 そして彼が最初に口を開いた。
「ならさ、うち、使うのどう?」
「え?」
「うちも機材あるし、今、大学の講堂空き時間を確認したら、今週末は講堂が使える。声だしも出来るし、最大収容人数は100人まで行けるよ。あ、ちょっとまって……。よし、今大学には申請出した!場所取れたよ!」
 救世主がここにいた。私は声が出なかった。
「聞こえてる?」
「う、うん!ありがとう!」
「代わりと行ってはあれだけど、場所提供の代わりにうちのサークル員の希望者も参加して良い?」
「もちろん!ごめんね、今回K大に声がかけられなかったのは場所に収容できる人数がギリギリだったせいなの。でも場所の収容人数が増えたのなら全然、大丈夫!」
「うちの大学まで遠征させて申し訳ないけど、すごくありがたい!」
「全然!こちらこそ、本当にありがとう!ありがとう!……よかった……やった……」
 気がつくと目から涙が出ていた。声も涙声になる。
「PA準備とかはこっちに任せて。もしも会場図案とかあったら送って欲しい」
「オッケー。スケジュールと詳細の企画書を送るわ。先方から送られてきている当日使う資料も送るね。こっちのサークル分は印刷済みだからこちらで持っていく」
 どんどん準備は続いて、場所の変更を先方に連絡し、本来到着予定の主要駅からそこまでの交通手段の確保もした。そして参加する後輩達に場所の変更のお知らせを送り、幹事を一緒にやってくれている後輩とのLINEグループにも解決策を送った。タイムラインは歓喜のスタンプで溢れた。

 
 県内の他の大学も巻き込んで、イベントはサークルの枠を飛び越えた。年末を迎える頃には参画したい学生の数も増えて、安定した運営が出来るようになった。もう後輩達だけで企画も運営も出来る。

 

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