違和感なく作業している家族の輪に入り、同い年であろう娘と一緒になって掃除を手伝い始める。
学友なのだろうと思わせた。
傍目には仲良く掃除をする二人。
だが、その間も。
琴美ちゃんが一言も声を出さなかったのが、違和感とも物悲しさとも感じられて仕方なかった。
「失語症?」
僕は思わず聞き返していた。以前に琴美ちゃんの事を気にしていた若い女性にだ。
「そうではないかって。カウンセラーの方が。ちゃんとした診察は受けてはないらしいんだけど……」
ボランティアセンターに用具を戻しに来た際、偶然に女性と再会して話を聞いた。
「何か怪我のせいなのかな? 見た感じではそうと思えないけど」と僕は訊いた。
「あの子に怪我はなかったみたい。精神的な原因らしいよ……家族が亡くなっているから、あの子の」
「……一人ぼっちなのか」
「ううん。お母さんは大丈夫らしいの。大怪我して入院してるけど。ここから直ぐ近い病院に」
「じゃあ他の家族は……」
「土石流に実家が巻き込まれて。二人だけ、助かった」
それを聞いて、何も返す言葉が見つからなかった。
今日、活動をした家は田舎の見事な佇まいの家屋。その広さに合う大家族が住んでいた。
だが立派な和室の畳も泥流が床上まで迫り、土色に染まり水気で歪ませていた。その畳を剥がし取って床下の泥を掻き出す。
両親に祖父祖母、息子さん三人に一番下に女の子が。家族総出で片付けだ。その他の手伝いも入れて大人数での作業だった。
父親の”家族が生きていただけで良かったよ”と洩らした言葉は、やるせない気分も含ませた一言だった。
一段落ついた頃だ。庭にふっと現れたんだ。あの琴美ちゃんが。
直ぐに下の娘さんが歩み寄っていた。心配げな表情で話す娘さんに、琴美ちゃんは首を大きく振って頷く。
――やはり学友なのだろうか。