小説

『千羽鶴』洗い熊Q(『鶴の恩返し』)

 指で折り目を押し開いて見ると、そこに――。
 ”さえき としろうさん”
 平仮名で、幼い字体の僕の名前が記されていた。
 流石に驚いた。偶然で選んだ一羽に僕の氏名。下の名まで知り得たのは点呼時か持ち物からか。
 よく見れば、色違いの鶴達の一羽一羽にも書かれているのに気づいた。
 ”いとう みきこさん”
 ”すすぎ けいたさん”
 全ての鶴に書かれているのか。そして幾つかの氏名には見覚えがある。
 皆、ボランティア参加していた人達の名前だ。またスタッフ参加していた人達の名も。
 幾つかには”おおたさん”や”しのぶさん”としか書かれていない物も。
 直ぐに察しがついた。
 名簿で見たんじゃない。その耳で聞き、逢って知った人達。
 氏名で呼ばれる機会は少ない。大抵に名字で呼ぶから。
 幾つか見る中に。
 ”おくむらのおっちゃん”
 そう書かれてるの見つけて笑いそうになった。

 一通り見て、天井を見上げる。
 滲んだ瞳を誤魔化し、鼻を啜っていた。
 嬉しいというより、安堵したと言うべきか。
 彼女は声を出すのを深層で忌避していない。何時でもきっと望んでいると。

 只これを見つけて悩ましい思いも。
 どうして僕に託したのかと。
 そして彼女は千羽鶴に、どんな願いを込めてくれたのだろうと。
 どんな願いにしろ。
 想いの詰まる、胸に抱えた鶴達の羽はとても温かく感じ。
 忘れかけた睡魔を思い出させてくれるのであった。

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