小説

『灯台守の犬』はやくもよいち(『定六とシロの物語(秋田の昔話:老犬神社)』)

安心したからでしょうか。
アンジェは食事中にまぶたが重くなり、目を閉じてしまいました。
マルコが椅子から落ちかけた娘を受け止めます。
ペスの体をひざに、アンジェを腕に抱えて、父親は床にすわり込みました。

 
シリウス号のブリッジで見張りの船員が驚きの声を上げました。

「船長! 灯りです。灯台です」

燃料も残りわずか。
いちかばちか船長の決断で、雲の下に出ようと高度150メートルまで降下した時のことでした。
灯台と聞いて、ブリッジがざわめきます。
一等航空士は冷静でした。

「見間違いではありませんか。航空灯台はすべて廃止されています」

「正にそのとおり。だが君、あの赤みを含んだ橙色の投光は、ケイン灯台のものだよ」

船長には経験に裏打ちされた、確固たる自信がありました。

「もう燃料もヘリウムガスも尽きようとしている。私を信じて、もう少し付き合ってくれないかね」

一等航空士は激しい揺れの中、腕をまっすぐ船長に向けて親指を立てました。
了解の合図です。
船長も合図を返すと、高度を50メートルまで下げるように指示を出しました。
休む間もなく、しゃがれ声を張り上げます。

「ケイン灯台の周囲に高い障害物はない。それでも外部監視を怠るな。地表の安全を確認したら、ただちに投錨せよ」

怒声にも似た返事の飛び交う中、一等航空士は素早く十字を切りました。

 
朝、まばゆい陽光でアンジェは目をさましました。
嵐はすっかり去っています。
目をこすりながら体を起こすと、いつの間にか何枚もの毛布がかけられていました。

「おはよう、アンジェ。早起きの新記録だな」

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