小説

『軸木は黒く燃え残る』洗い熊Q【「20」にまつわる物語】(『マッチ売りの少女』『アリスの不思議な国』)

 二人は手と手を取り合って立ち上がる。ぎゅっと握り合ったまま、大人たちの輪に走り出そうとした。
 ――それを拒むのか。いや、二人を迎え入れようなのか。
 急激に目前の光が強まってゆく。目映いばかりの光は、大人たちの影絵を薄め、周囲の景色も掻き消してゆく。そして真っ白な世界へと移り変わってゆくのだ。
 その白い世界の行く先に、二人は人影らしきものを見るのだった。光の中に佇むように。
 そして、その影が二人に手を振ったように見えた。
「……あれ? ねぇ、ママじゃない? あれ……」
「そうかも……そうかな」
 そう思った瞬間、微睡いていた影がはっきりとした形影となった。光の先に、二人を招き入れるように手を振る人影があった。
「そうだよ! ママだよ、手を振って呼んでる!」
「誰かもう一人いる? ……もしかしてパパ?」
「そうだよ、パパだよ! 私たちを迎えに来てくれたんだよ!」
「帰って来れたんだ、パパ……迎えに来てくれたんだ、ママと一緒に」
 兄は思わず滲んだ涙を腕で拭っていた。
「お兄ちゃん、行こう! ママとパパのところに!」
「ああ、行こう! 二人で一緒に!」
 兄と妹は手と手を取り合って、転ばんとする勢いのままに光に向かって走り出していた。

 

 

 ――私は前線で戦っていた歩兵でした。
 運が悪かったか。敵兵の中で孤立し雨の様な砲撃を浴び。
 運が悪かったか。重傷を負いながらも味方に救われ、その場を生き延びてしまいました。
 生き残ったとはいえ。
 深い傷と、満足な治療を受けられない環境では、意に叶う治りは望めませんでした。
 足の切断は避けられたものの、只の棒の様になってしまった足では兵としては役立たずで。
 自国のこの街に帰ったとしても、戦時下では真面な職など有りもせず。
 親類は四散し。家族は戦死し。頼れる者など誰もいない。
 こう頻繁に空襲が起きていれば、逃げ足の遅い私などは直ぐに死ねるだろうと考えていたのですが。
 運が悪かったか。未だに生きているのです。

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