小説

『軸木は黒く燃え残る』洗い熊Q【「20」にまつわる物語】(『マッチ売りの少女』『アリスの不思議な国』)

「そうだよ。終わった、終わったって。笑い合ってさ。喜んでさ。みんな一斉に飛び出していくんだ」
「……お祭りだね。みんな笑って、喜び合うなんて」
「そう、そうだよ。お祭りだよ。手を取り合って、みんなで踊るんだ。手を高々に上げてさ。大きな焚火を囲んでさ」
「楽しいね、それ。嬉しいね、それ」
「ママも、パパも。みんなで手を繋いでさ。グルグルとステップ踏んで回ろう、踊ろう」
「うん、踊る。私も精一杯に踊っちゃうよ」
「……じゃあマッチに火を付けるよ。準備はいいかい?」
「うん」
 兄はマッチを大事そうに持ち直すとゆっくり、力強く茶色の紙面に赤い頭を擦りつける。
 最後の一本は小さな光の玉を最初に放ちゆっくりと、そして徐々にと、火を大きくしていった。
 仄かに赤い、オレンジ色の光。
 小さな火なのに、二人の頬に緩やかな温かみを与えていた。

 ――そして光は、二人の前で大きく広がる。

 暗かった天井を。冷たかった床面を。項垂れていた大人たちをも。
 その光は照らしていった。
 橙の光は眩しく輝いて、輝いて。揺らいで、揺らいで。見えない波になって周囲を包み込む。
 揺らいでいた光が纏まりを見せると、それは大きな球になる。そう、太陽だった。
 降り注ぐ陽射。目映いばかり光。凍えていた頬を身体を、そして冷め切っていた床面をも暖め、跳ね返る熱が足下からも感じる。
 大人たちは驚き、立ち上がり、そして歓び。降り注いだ陽に感謝を捧げる手を上げ、笑顔に満ちた歓喜を上げる。
 そして踊り出しのだ。万謝の言葉を、溢れる幸せを表現する様に。眩しい光の中で大人たちの影絵が揺らいでいるのだ。
「見て、お兄ちゃん! みんな喜んでいるよ! 踊っているよ! 笑っているよ!」
「本当だ! すごい、すごいや!」
 二人は光に驚き、踊り出した大人たちに呆気に見ていたが、その光景の中で次第に笑顔になっていた。
「本当だったね、お兄ちゃん。マッチに願い事を想うと見えるって、本当だったんだね」
「うん、そうだったんだね。ほら見てごらん? みんな喜びすぎて飛び跳ねて踊っているよ。すごいや」
「本当だね! ねぇ、私たちも行こうよ! あの輪に入って一緒に踊ろうよ!」
「そうだね、そうだよね!」

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