「お兄ちゃん、今度は何を願ったの?」
「へへ……」
「わかった。ジェドおばちゃんのアップルパイだ! お兄ちゃん、大好きだもんね」
「よくわかったなぁ~。おばちゃんのアップルパイは大きめのリンゴとハチミツがたっぷりだから大好きなんだ~」
「お兄ちゃん、お兄ちゃん。直ぐにマッチを付けて! 次、私が願うから」
妹に急かされて、兄は直ぐに五本目のマッチに火を付けた。
「今度は何を願ったんだい?」
「えへへ……当ててみて、お兄ちゃん」
「うーん……わかった。スミズ叔父ちゃんのチョコレートだ!」
「おしい! スミズ叔父さんは叔父さんだけど……私が願ったのは、スミズ叔父さんの工房だよ」
「食べ物じゃないのか……でもわかるよ、叔父さんの工房。色んな大きな時計だったり、小さな腕時計あったりね。チクタクチクタクと鳴り続ける時計たちの音」
「不思議だよね。本当におとぎの国にいるみたいな感じになるよね。……アリスの国のウサギさんが持っていた時計もあんな音を出していたのかな?」
「きっと綺麗な音を立てているよ。だって大事そうに持っていたんだから……」
真っ暗な天井を見上げながら、二人は工房を思い出す。
壁に掛けてある幾つもの掛け時計。テーブルの上に置かれた綺麗な装飾を着こむ懐中時計。それぞれに小さく、または大きく、歯車を動かして次へ次へと時間を刻む音たちを。
でも暗闇の中に響くのは――。
どどーん!
どどどーん!
地鳴りのような音は大きくなるばかりか、近づくばかり。
妹は思わず更に兄に寄り添った。
「お兄ちゃん……」
「……大丈夫だよ、きっと大丈夫。ほら、さ。まだマッチは十五本もあるよ。今度は僕の番か? それとも次もお前が願うかい?」
「うん。でも順番は順番だから、次はお兄ちゃんが願って」
見えない中でも、妹が微笑んだのがわかった。
その笑顔は、六本目のマッチの光で浮かんでいた。今度は長く、そしてゆっくりとした揺らぎで火は消えていった。
「……お兄ちゃんが何を願ったかわかった」