それに気遣うように兄は妹の頭を撫でて上げていた。
「……じゃあ、今度はお兄ちゃんが願ってみるよ。見ていてくれる?」
「うん」
そう言うと兄は、また一本のマッチを手にとって擦った。
再び玉の灯火が二人の顔を照らし出した。そしてまた直ぐに、火は消えてしまう。
「……お兄ちゃん。何を願ったの?」
「パパだよ」
「パパか……きっと笑ってたんでしょ?」
「うん……みんなでピクニックに行った時に見たいに、大きな口で笑っていたよ」
「……パパ、元気でいるかな」
「大丈夫だよ、きっと。だってパパは勇敢な兵隊さんだから」
「そだよね。パパ、強いもんね。この間の手紙にも敵をいっぱいやっつけたって書いてあるって、ママが言ってたもんね」
「うん、うん」
「……でもその後、ママ、泣いたんだよね……なんでだろ?」
「きっと寂しいんだよ、会えないから。僕たちと同じだよ」
「……うん。私もパパに会いたい」「帰ってくるよ、パパ。ママと一緒に待っていよう?」
「うん」
元気に返事する妹の声を聞いて、兄も少し元気を貰っていた。
「じゃあ次はお前の番だ。願い事を決めたら合図を頂戴。そしたらまたマッチを付けるよ」
「うん、わかった」
妹は願い事を決めると、合図代わりに兄の肩を触った。そして三本目のマッチに火を灯した。
今度のマッチは一際大きく火が上がって、木の柄までゆっくり、そして長く燃えてくれていた。
「……今度は何を見たんだい?」
「……ママのシチュー」
「ああ大好きだもんな、ママのシチュー。僕も大好きだけど」
「パパも大好きだって言ってたよ。あのごろごろした大きいジャガイモとニンジンが入ったのね」
「マッシュルームも忘れずにね」
「そうそうマッシュルーム……また食べたいな、ママの」
「きっと食べれるさ。ここから出れたら、直ぐにママが作ってくれる」
そう言った兄は、直ぐさまに四本目のマッチに火を付けていた。慌てて付けたようだったからか、マッチの火は一気に燃えて直ぐに消えてしまっていた。