小説

『軸木は黒く燃え残る』洗い熊Q【「20」にまつわる物語】(『マッチ売りの少女』『アリスの不思議な国』)

 爆撃で崩れかかった建物。燃え上がり真黒になった壁面。収まった後でも、いまだ燻り立ち昇る幾つもの煙。瓦礫と化したこの街で、こんな私は一体なにが出来るのか?
 幸いなことに出来ることがあります。
 それは死体を片付ける事。
 味方の兵を。敵の兵も。一般の市民達を。
 形あれば集めるという仕事です。
 埋葬というには粗雑。ただ一箇所に集め、灰になるまで燃やし、埋めるだけ。
 身元が明確なら多少なりと形式を整え仮埋葬できるのですが、そんなことは希です。私と似た境遇の人たちと共に一輪車に遺体を乗せ運び、トラックの荷台に放り投げて持って行くだけ。
 ――今日もまた、昨晩の空襲で多くの人が亡くなった場所へと来ました。
 地下浅く造られた倉庫だったのでしょうか、そこに避難していた市民達が犠牲になったようです。
 倉庫への入口へと降りる階段下を見れば、丈夫そうな扉が中へと吹き飛ばされていました。入口周囲は煤で真っ黒になっている。
 最初の爆風で扉が吹き飛んでまでなら、それはそれで終わりだったんでしょうが。
 運が悪かったか、そこに更に焼夷弾が落ちてきたのでしょう。密閉されていた地下空間に、一気に広がるように炎が流れ込んでいった。日の明るさがあるのに、倉庫の奥を覗いても真黒なままですから、恐らくはそうなのでしょう。
 カンテラ片手に入口に近づけば、まず感じるのは臭い。燻されたのと、生魚を焼いたも似た脂の刺激臭。何度も嗅いだことがあるので分かります、それが人の匂いだと。
 布で鼻や口を覆いながら中へと入ると、倉庫の天井が幾箇所か崩れて陽の光り出さし込んでいました。そのお陰でカンテラの明かりなしでも見渡せます。
 まず目に付いたのは、壁際にあるピンク色の肌の遺体達。まだ生きている様に壁にしがみついてます。蒸し焼きになって空気を求めたのでしょう。
 そして奥へと足を進めば、床に転がる真っ黒な遺体達。辛うじて、人の形だと分かる程度で。どの遺体も凍えるように手足を屈めて丸まっている。だけどその手の指だけは、何かを必死に掴むごとくに広げ気味なのです。
 まずは手近から、二人や三人で遺体を持ち上げて一輪車に乗せは運び出す。炭になってしまった遺体は途中で崩れてしまいますが、致し方有りません。
 幾らばかりか遺体を運び出した後に、私はまだ奥にいる人か確認の為に進みました。所々に爆撃で穴が空いた天井から陽が射しこんでいて、何時崩れてくるか分かりませんが恐くはありませんでした。

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