小説

『祝祭の日』藤野【「20」にまつわる物語】

 サーシャは両隣に立つハビエルとカトリーナの手を握った。2人とも黙って握り返してきた。帰り道は大学のことや進路のことを3人で話しながら帰るだろう。でも、今はまだ失った過去に向かい合う時間だった。大人たちが過去を語り、この村の記憶をつなげようとしている。どこまでこのバトンをつなげられるかはまだわからない。少なくともここで生まれた最後の子供たちであるサーシャたち3人はこの村の記憶とともに未来を歩いていくだろう。
 日が完全に登り切った。
 朝もやが晴れ、清々しい青空が今日も広がった。どこまでも遠くを眺めることができそうだった。
「あー、眠い」大きく伸びをしてカトリーナが歩き出した。皆が帰り支度をし始めている。
「ハビエル、車で来たならどっかで3人でエスプレッソでも飲もうよ」眠そうな声でカトリーナ提案する。
「いいよ。じゃあ、片付けが済んだら村の入り口で集合しよう」
「片付けかー。ちょっと休んでからにしようよ。あたし、明日からテストなのよね。サーシャ?聞いてる?」
「うん。今いく」
 サーシャはもう1度眼下に広がる廃墟となった村を眺めた。
 小さな頃の3人がそれぞれの家から飛び出して、笑い合いながら学校に通っている姿が見えた気がした。そんな記憶はあるはずはないのに誰かの思い出が確実にサーシャの中で生き続けている。
 辛かったことや悲しかったこと。ここを離れることになった時の無力感や絶望。きっとたくさんの思いがここには残っている。でも、大人達は前に進むために必要なものだけをサーシャたちに託してくれた。
 ゆっくりとカトリーナとハビエルが待つ方向へ歩き出した。
「私も来週から試験なの。でもそれが終わったら旅行に行くんだ」
「羨ましいな。またSNSに写真アップしてよ」
 懐かしい記憶とともに未来の時間が始まっていく。

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