小説

『祝祭の日』藤野【「20」にまつわる物語】

 カトリーナが思いっきりしかめ面をしてみせる。小さな頃から変わらないその表情にサーシャが思わず吹き出すと、「ちょっと、笑い事じゃないんだから。過去だけじゃなくて未来のことも語らせてほしいわよ」とカトリーナがふくれた。「ごめんごめん」カトリーナの言うことも正しい。お詫びにサーシャの分のワインを少し分けてあげると「あら、ありがとう」すぐに機嫌が直る。
「俺もカトリーナに賛成。明日になったら思う存分未来を語ろうよ」
「そうね」サーシャもうなずく。
 東の空がぼんやりと明るくなってきた。もうすぐ祭りの終わりの時間が来る。 「寒くないかい?」柔らかな声がかけられた。神父さんがサーシャとカトリーナに毛布を差し出しながら、微笑んでいた。
「あったか〜い」
「ありがとうございます」
 顔をうずめると太陽の香りがする。小さな頃にもこうやってここで毛布に顔をうずめて3人で眠ったことを思い出す。心地よい。
 神父さんはゆっくりと3人の顔を眺めながら、「君たち幾つになったんだっけ?」焚き火の方からひときわ大きな笑い声が聞こえてきた。
「今年で20歳になりました」ハビエルが答えた。
「そうか」
 神父さんも黙って東の空に顔を向けた。ちょうど夜明けの時間だった。そして、静かな朝の光の中で麓の村が浮かび上がってきた。頑張って起きていた子供達が歓声をあげる。その声につられて何人かの眠っていた子供達が目をこすりながら体を起こす。大人たちが話すことをやめる。
 美しい廃墟がそこに現れた。
 朝日を浴びて、誰も住むことができなくなった崩壊した家々が淡い朝もやの中から立ち上がる。
 20年前に起こった大きな震災の影響で、サーシャたちはこの村に住み続けることはできなくなった。村のシンボルであった教会だけはその時も大きな傷跡をおうことはなかった。この場所に逃げてきた村人たちは崩れていく村を見ながらこの村を捨てることを決めた。だから、サーシャにはこの村で暮らした記憶はない。
 年に1回だけ、地震が起きたその日を「祝祭の日」として村人たちは今でも集まり続けている。幼い頃から年に1回だけ会える友人たちは、会うたびに少しずつ変化を遂げて、いつの間にかサーシャ達よりも小さな子供たちが増え、そして何人かはもう会うことが叶わない。

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