小説

『はたから見たらごんぎつね』渋澤怜(『ごんぎつね』)

C メカギツネ
 そのキツネは、ひとりぼっちの子ぎつねで、森の中に穴をほって住んでいましたが、全然さみしくありませんでした。なぜならメカなので、さみしいという気持ちは特にないのです。
 見た目は普通のきつねと変わりませんでした。特にお腹が空かないので、うなぎにちょっかいを出したり、いわしにちょっかいを出したり、栗を運んだりするのも、ただの気まぐれ、というか、ただの行動でした。しかし、村人にとってはひどく迷惑ないたずらばかりするので、「ごんぎつね」と呼ばれて嫌われていました。
 メカギツネは、悲しいという気持ちも、申し訳ないという気持ちも、エゴも贖罪意識もありませんでした。
 ある夜、兵十という村人が、自分の家の中に入ってくるきつねの姿に気付きました。こないだうなぎをぬすみやがったあのきつねめが、またいたずらをしに来たな。そう思った兵十は、ごんぎつねを火縄銃でドンとうちました。
 兵十がかけよると、土間に栗が固めておいてあるのが目につきました。
「ごん、お前だったのか。いつも栗をくれたのは」
 精密なメカギツネは弾丸を受けて壊れ、完全に機能を停止していたのですが、兵十の目には、息絶えつつある生き物が、最後の力を絞って頷いているように見えました。

1 2 3 4 5 6 7