小説

『はたから見たらごんぎつね』渋澤怜(『ごんぎつね』)

E ごんぎつね以外
 ごんが兵十のかけた網にいたずらをしてうなぎを逃がした時、いうなぎは、びくの中から逃げたくて仕方かったので、ごんのいたずらをこれ幸いとありがたがりました。というのも、うなぎの奥さんが産気づいていたのです。うなぎは川に放たれると、一目散に奥さんの元へと泳ぎ去っていきました。
 さて、兵十がうなぎを捕りにいっている間、兵十のおっ母はさみしい思いをしていました。おっ母は、自分の命がもうあまり長くないことを知っていましたから、「精をつけてやる、うなぎを食わせてやる」と張り切って出かけていった兵十の背中を見送りながら、「そんなことはしなくていい、自分の命はもうどのみち長くないから、できるだけ長く一緒に時間を過ごしたい」と思っていました。ところが兵十は、思ってたよりも随分と早く帰って来たので、おっ母は喜びました。兵十は、きつねにいたずらされて漁が台無しになったから、すっかりやる気をなくしてさっさと切り上げてきたのです。
 また、ごんが山から川へとやって来た時、たまたまごんのからだにくっついていたとんぼは、「ああ、喉がからからだったんだ、ちょうど良いタクシーだ、ありがたい」と言って、川の水面におりたち、ごくごくと水を飲み始めました。
 また、ごんがうなぎと戦って随分と激しく水をばしゃばしゃと跳ねさせるものですから、小さな虹がかかったのでした。ちょうど川虫のお母さんは、子どもに「ねえ、お母ちゃん、虹って何?」と聞かれていたところでしたので、息子に虹を見せてやることができました。
 さらに、ごんのからだについていたノミの一匹は、ごんのからだが激しく動き回るのにつられて跳ね回り、ごんのからだの上で運命の相手を見つけることができました。
 さらに、ごんのからだの中にいる菌の一種は……

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