中学生になって、順風満帆だった日々に亀裂が入りはじめた。ほんの小さな、目に見えないほどのものだったそれは、私に気づかれないうちに周りの物事を少しずつ変化させていった。その変化の速度があまりにも遅かったので、取り返しのつかない致命的な事実として私の眼前に現れるまで、変化に気づくことができなかった。でも、高校生活も一年を過ぎるころには、毎日の息苦しさに真正面から向かっていかなくてはならなくなっていた。
小学校の四年生の時から続けていたバスケは高校二年の夏で辞めた。三年生が引退し、新チームになって、今まで目立たなかった女生徒が存在感を発揮するようになり、それはそのまま私の排除につながっていたのだ。そのチームは大して強いチームではなく、部員たちは、一つでも多く勝つことより自分の居場所を確保するのに情熱を傾けていた。そして私は居場所を自分で勝ち取りにいくのが苦手だった。学校生活の中で、その欠点はその後も私の足を引っ張り続けた。
クラスでも仲の良い友人は多くなかった。というより、学校全体を見渡して、ようやく一人、友達と呼べるものを見つけられるくらいだった。つまり、私には美沙しか友達がいなかった。
その状況は突然出来上がったわけではなかったと思う。あるいは、最初から私には友達はいなかったのかもしれない。何にせよ、私には何があって何がないのか、何を求めて何を拒絶しているのか、はっきりしていなかった。
友人がいない分、満ち足りない心は男に向かった。高校入学当時は、告白されることはそこまで多くなかった(そう言ってしまうところが悪いところだと、美沙は度々私を注意していた)。一年、また一年と時が経つにつれ、その数は指数関数的に増えていって、「浅野友理は誰とでも寝る女である」という噂が原因なのは明らかであった。
「友理、大学生になってからも会おうね。月一回は遊ぼうね」
高校の卒業式の日にそう言ってくれた美沙。彼女とそのあと会うことは一度もなかった。連絡が来ることもなかったし、私から連絡することもなかった。
ある時、同じ大学に通う同級生と偶然会って、聞いてもいないのにこう言われた。
「美沙と会ってる? 会ってないでしょ。やっぱりね。え、いや、話していいのかわからないんだけどさ、でも友理ちゃんもかわいそうだし。うん、私が教えてあげる。美沙、あんなに友理ちゃんと仲良くしてたくせに、卒業した後、みんなに友理ちゃんの悪口しゃべりまくってるの。誰とやったとかも話してるんだよ? でも大丈夫だよ、友理ちゃん。みんな全部信じているわけじゃない、当たり前だけどさ。むしろ美沙の方が最低だって言われてるんだ。美沙はおこぼれをもらいたいから友理ちゃんと一緒に居たんだって。友理ちゃんみたいな可愛い子に近づいてくる男が、美沙に振り向くわけないのにね。あっ、美沙には内緒ね? 何って、私が友理ちゃんに美沙が話していることを教えたこと。もちろん美沙の悪口言ってたのも内緒。うん、わかってる。友理ちゃんがペラペラ話すような人じゃないのはわかってるんだけどね。一応、念のためね。ごめん。このあと授業だからもう行くね。今度また高校のクラスで集まるから来てよ? みんな喜ぶよ。絶対だよ? バイバイ」