小説

『舌(ZETSU)』不動坊多喜(『王様の耳はロバの耳』)

 買ってきた物を、机に並べる。
 風鈴の舌をはずし、プラスチックトレーの中に置く。金属のやすりで、そっと表面を剥ぐ。微かな悲鳴を上げながら、金属の粉がトレーに溜まっていく。きれいになったようでも、油断はしない。悲鳴が聞こえなくなるまで、全体を磨く。擦り落としの無いように、丁寧に、無言で作業する。
 完全に削り落とせたと納得できたところで、磁石を取り出した。ラップを被せ、金属粉を集める。スチール缶の上で磁石をはずし、粉を落とす。何度もそれを繰り返す。一粒でも残すと、大変なことになる。そんな気がしていた。
 全て集めたと確信できてから、缶に蓋をする。それをトンカチで叩く。二度と開かないように、中身がこぼれないように、気をつけながら缶を潰す。
 どうか溶鉱炉まで届きますようにと、願いを込めながら。
 ピカピカの舌と新しい短冊を取り付け、風鈴を軒下に吊す。
「幸せだ。私は本当に幸せだ」
 短冊の揺れに合わせて声に出す。ティーンティーンと、以前より少し高めの音を立てて、風鈴が上書きする。
 幸せだ。本当に幸せだ。
 あふれる涙を拭いながら、私は何度もつぶやいた。

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