小説

『こびとの片想い』夢叶(『白雪姫』)

 下を向いていた白雪は顔をあげ、作り笑顔を浮かべて言った。
「私、王子様に殺されそうなの」
 その言葉に僕らは愕然とした。
 彼女は森を出てからのことを話し始めた。
 城に到着した後すぐに、結婚式を挙げ、白雪は王子と幸せな時を過ごしていた。結婚してから2週間がたち、多忙だという王子と会えない時期に侍女が一人ずつ行方不明になるという不思議な出来事が起きた。昔からこの城に勤めている侍女長はいつものことだと言って当たり前のようにその事実を受け入れていた。
 それでも、白雪は気になって仕方がなかったので、王子に相談することにした。彼の侍従に寝室にいると聞いて、彼の寝室に向かった。寝室の手前で、どこかに向かう王子を見つけた。声をかけようと思ったが、彼が向かった先は出入り禁止されている地下の入口だった。好奇心に勝って、彼のあとをついていくことにした。すると、地下への階段を下りて一番奥の部屋に彼は入っていった。彼女は鍵穴から様子を覗いてみた。
「そこにはね、透明のガラスでできた棺がたくさん並んでいた。その1つ1つに、女性が横たわっていた」
 彼女は自分を守るように肩を抱き、震えて言った。
 棺に横たわる女性の中には、行方不明になった彼女の侍女もいたそうだ。王子は『今日も美しいね』『愛しているよ』と棺に囁き、彼女たちにキスをし、体を蹂躙した。全く息をしない彼女たちはそのままされるがままだ。
 彼は死体愛好家なのだと白雪は直感し、戦慄した。恐る恐るもと来た道を戻ろうとしたとき、彼が呟いた
『君たちはいつも美しい。しかし、彼女はとても美しかった。息をしていないのに、肌は雪のように白いのに頬は薔薇の色。死んでいるようには見えないのに死んでいる。まるで、時が止まったかのように…』
 彼女は自分のことだと確信した。
『彼女に思わず、キスをしたら彼女は目覚めた。本当に美しい女性だ。この人だったら、生きていても愛せると思ったんだ。…だけど、彼女と数日過ごしてみたが、動いている彼女を心から好きになることができなかった。僕を思い出させるのは、ガラスの棺に寝かせられた、この世のものとは思えないほど美しい彼女』
 彼の狂気に満ちた愛に、恐ろしさを感じ、白雪は足が動かない。
『やはり、彼女は死んでいるからこそ美しい。彼女を永遠の眠りにつかせ、職人に極上の棺を用意させよう。彼女の棺を僕の寝室に運ばせ、一生見つめていよう。彼女は一生僕のもの…』
 逃げなきゃと思い、動かなかった足を無理やり動かし、白雪は城の外へ駆け出した。
 そしたら、いつの間にかここにたどり着いていたらしい。

 
 彼女は今までの出来事を話したら、また震えが止まらなくなり、僕たちは依然使っていた部屋に彼女を休ませた。心が追い詰められたのだろう。安心したのか、ベッドに寝かせたらすぐに、寝息が聞こえてきた。
 居間に残った僕たちは今後のことを話し合った。

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