彼女の姿を探すように彼女の使っていた部屋にふらふらと入った。そこには、彼女が使っていた白いハンカチがあった。ふいにそのハンカチに触れると、ドキッとした。
心臓の高鳴りが止まらない。
どんな日々が過ぎようとも、彼女を忘れることができない。
この喪失感を、彼女に対する感情を消せたら楽になるのに…。
感情を抑えきれず、夜の森に飛び出していた。
なぜ、彼女に出会ってしまったんだろう。
なぜ、いなくなった彼女にここまで心がゆがんでしまうのだろう。
なぜ、他の仲間は平然と彼女のいない日常を受け入れているのだろう。
彼らと僕の彼女に対する感情に何が違うというのだろう。
心が崩壊しそうになりながら、様々な疑問が交差する。
無我夢中に走って、彼女の棺の前まで来ていた。月明かりに照らされて、彼女の肌や髪は輝いているように見えた。
「あぁ、そうか」
眠り続ける彼女に見た瞬間、すべての疑問が解けた気がした。
彼女が好きだったのだ。心から愛していたのだ。
仲間への好きとは違う感情なのだと自覚してしまった。
この感情の名前を知らない。彼女が生きていたら教えてくれただろうか。
彼女が眠る前に、この感情に気づきたかった。
そっと彼女の顔に触れる。どんなに経っても美しい顔は少し笑っているような気がした。
僕は彼女の顔に優しく包み込み、無意識に頬に唇で触れた。自分の行動に驚いたが、もっと触れたいという衝動にかられた。
彼女の唇に自分の唇をそっと合わせた。これが白雪の言っていた、好きな人同士がする「くちづけ」というものなのかもしれない。彼女の柔らかい唇に触れているだけで、心臓が破裂しそうなのに幸福感が胸の中で芽生えた。
彼女いなくなった喪失感をこの幸福感で埋めるように、僕が毎晩に家を抜け出して彼女のもとへ行った。彼女へのくちづけは彼女のいなくなった日々の日課になった。
彼女が永遠に眠ってから少しばかり経ったある日、食事係だった僕は、シチューの味見をしていた。白雪へのくちづけをするようになって、少しずつ日常で再び笑顔をとり戻してきた。
「よし、シチュー完成っと。…うわ!」
突然ドアが大きく開いたと思ったら、仲のいい小人イエローが転がり込むように家に入ってきた。
「おかえり…ってどうした」
イエローの顔は涙でぐしゃぐしゃになっていた。