小説

『王子がステキと限らない』檀上翔(『シンデレラ』)

「まず動機がありませぬ。黙っていれば数年後は国王になれるにも関わらず、いま企てる必要などないでしょう。証拠も不十分です。このようなことはすぐに結論を出さなくていいはず。末代まで続く、天下の恥になるかもしれませんぞ。」
「左大臣殿、言葉が過ぎますぞ。国王様の判断にけちをつけるのですか。」
「せめて、国外追放にしてくださいませ。実の御子を処するのは決してしてはなりませぬ。必要とあらば代わりにこの首を差し上げます。」
 ヒダリーヌは国王の前に膝まずいた。参列者も人の子、人の親。同情心が場を包んだ。
「わかった。左大臣が命を懸けた進言に従おう。皇太子の処刑は取りやめ、国外追放とする。」
 広間にいるものは喜びと悲しみが混じる合う表情を浮かべていた。

 
「兄上、本当にこれでよかったのですか?」
 第二王子、いや新しい皇太子は国外に旅立つ実の兄、元皇太子を見送った。
「私には政治に興味もなければその力量もない。お前が継いだ方がこの国のためだ。お前のおかげで、こうして長年の夢だった外国を旅することができる。むしろ、礼を言いたいくらいだ。それにしても二十年もうつけの演技をするのも疲れた。」
 ガラスの靴の一件は、両王子が国王に向けた反逆だった。自由の身になりたい兄に、国のために尽くしたい弟。
「あのシンデレラという女は?」
「心配ありません。今頃フィアンセと仲良く旅立っていることでしょう。国王の命令とあれば、強欲な継母も逆らえません。」
 弟は兄が遠ざかっていくのを見ながら、木陰に隠れていたミギーヌに声をかける。
「よく働いてくれた。それにしても、シンデレラを利用するだけでなく、ヒダリーヌの進言すら予想して計画していたとはな。さすがに父上が兄上を処刑すると言ったときは焦ってしまった。」
「私は左大臣殿を尊敬しております。寛大な人徳と死をも恐れない忠義を持つ方ですから。」

 数年後に国王が死に、弟の皇太子が王座に就いた。新しい王様は有能な左大臣、右大臣とともに善政をし、自国のみならず隣国までも豊かにするように繫栄をした。追放された兄はときどき故郷に帰ってきては、兄弟水入らずで酒を交わしたという。
 新国王十年目に国旗が刷新した。ガラスの靴が描かれた国旗だったという。

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