小説

『王子がステキと限らない』檀上翔(『シンデレラ』)

「この女こそ魔女、国を乗っ取ろうとしているのではないでしょうか。」
 悲鳴に似たざわめきが起こる。シンデレラは必死で否定をするけれど、その声はかき消され誰の耳にも伝わらない。
「それともう一つ。」
 ミギールは髭を撫でながら言葉を強める。
「皇太子さまもそれをご承知だったのではないでしょうか。」
「まさか。」
「そうでなければガラスの靴だけを手掛かりに、顔も忘れた女などを探しますでしょうか?このようなことを推測で申し上げることははばかられるかもしれませんが、あえて申し上げさせていただくと、皇太子さまはこの魔女と組んでこの国を乗っ取ろうとしているのです。」
 場が静まり返る。皆が皇太子とシンデレラを交互に見る。シンデレラは凍り付き、瞬きすらできない。皇太子は心ここにあらずという様子。
「なにも反論されないのがなによりの証拠。これは国家転覆の重罪です。たとえ皇太子さまといえども、お覚悟を頂かなければなりません。」
 王様は、皇太子になにか返事をするように迫るが、一瞬視線が弟の第二王子に向いた気がしただけで、うっすら笑みを浮かべるばかり。その場の誰もが急展開に戸惑いつつも、皇太子とシンデレラの有罪を確信した。そのとき、
「ちょっと待ってください。」
左大臣のヒダリーヌが汗を拭って割り込んできた。
「みなも知ってのとおり、皇太子さまはうつけなのですぞ。そのようなことを考えることも、考えられることもありますまい。」
「左大臣殿、いまのは皇太子さまへの侮辱ととってよろしいのですか?王家に対する侮辱は国家反逆と同罪。あなたも大罪を犯すのですか。」
「私の首でよければいくらでも城壁にお並べくだされ。皇太子はうつけものです。したがって国家転覆などありえない。」
 ヒダリーヌが唾を飛ばす。
 シンデレラも無罪を主張したいが、兵士から槍を首元に突き付けられ、恐怖で喉が張り付いている。
 王様さまは戸惑っていた。まさか実の息子から貶められるとは思っていないが、ガラスの靴の一件はたしかに不審なところが多い。ちょっと足りない息子であれば、妙な魔女から言いくるめられるのもあり得るだろう。皇太子は弁解もしない。泣いて詫びるのであれば、酌量の余地はあるのだが。
ミギーヌから決断を促される。皆は王様に視線を浴びせる。王様は上の空の皇太子をちらりと見て、
「皇太子を国家反逆罪として処刑とする。」
と、苦肉の決断で述べた。すると、すぐにヒダリーヌが喉が搔き切れるような大きな声を上げる。

1 2 3 4 5 6 7 8