小説

『王子がステキと限らない』檀上翔(『シンデレラ』)

 ヒダリーヌが一歩前に出て、
「時間が勿体ない、はやくそれぞれの言うガラスの靴を見せよ。」
と、言うと花嫁候補たちは互いをけん制するように袋の中からガラスの靴と銘打つものを取り出した。驚いたことに貴族の娘も商人の娘もガラスの靴を持っている。
「これはどういうことだ?ヒダリーヌ。」
 王様から問われたヒダリーヌは訳がわからずにうろたえた。まさかガラスの靴が三足も出てくるなどと考えていなかった。
「王様、ここは私にお任せください。」
 ミギーヌは手を胸に深くお辞儀をすると、王様の前に置かれた置き忘れられたガラスの靴を手に取ると、三人の持つガラスの靴ひとつひとつと見比べる。
「実はこういうこともあるだろうと思いまして、王国内のガラス工房に部下を派遣したのです。案の定、ガラスの靴を作ってほしいという依頼があったようで。」
 ミギーヌは貴族と商人の娘からガラスの靴を取り上げて、大理石の床に叩きつけた。
「ヒールの高さや装飾が全然違う。それらは偽物だ。」
 シンデレラに注目が集まる。ミギーヌはシンデレラの持っている靴ともう一方の靴を揃える。
「まさしくこちらが、本物のガラスの靴です。」
 広間に集った人たちから歓声が上がる。シンデレラは促され、しぶしぶ王様と皇太子の前に出る。王様からにこやかな表情で
「そなたがガラスの靴の持ち主で間違いないな?」
と聞かれたシンデレラは静かに頷くしかなかった。
「それでは決まった。喜びなさい、皇太子の花嫁になるのだ。」
 一斉に祝福の声が上がると思った瞬間、
「お待ちください、国王様。」
 ミギーヌが大きな声で割り込んできた。広間にいる人が怪訝な顔をして、ミギーヌを見る。
「このシンデレラという女、なにやら怪しいと思うのです。」
「どういうことだ?」
「この女、ガラスの靴を魔法使いから手に入れたと言っておりました。ガラス工房でも確認させましたが、これほどの装飾をすることは人の手では不可能ということ。」
「ということは?」

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