小説

『王子がステキと限らない』檀上翔(『シンデレラ』)

「右大臣様の従者が持ってきてくれたのよ。王国の大事を決める貴重なものと言ってね。あなた、意外におっちょこちょいなのね、こんなに大切なものをなくすなんて。」
 右大臣様が?なぜわたしがパン屋の娘に渡したことを知っていたのか、どうやってパン屋の娘から手に入れたのか、なぜわざわざわたしのところに返すのか。シンデレラは明日の輝かしい旅立ちの計画が音を立てて崩れるのを感じた。
 今夜のうちにライアンと逃げ出すしかないと思った矢先、知らない男が部屋の奥に立っているのを見つけた。
「ほら、あの方がさっき言った従者よ。今日はうちに泊まって、明日あなたをしっかりとお城へ連れて行って下さるの。ねえ、もうお姫様になったようなものね。私のこれまでの親切を忘れちゃ嫌だよ。」
 さすがは、切れ者と呼び声が高いミギーヌ大臣。もう逃げ場がない。彼の意図はまるで分らないけれど、ガラスの靴を持って、お城に行くしかなくなった。
これがわたしの運命なのだろう。明日の二十歳の誕生日が人生最悪の日になってしまう。シンデレラは毎日欠かさず書いている日記に嘆きと、ライアンへの変わらぬ愛を綴り、眠れぬ夜を過ごした。

 
 お城の大広間は王子の花嫁を決めるだけあって、王国の多くの貴族や大臣たちが集まっていた。槍を天井に向けた兵士の視線は鋭い。
王座には国王が緊張気味な面持ちで鎮座し、その両隣に締まりのない皇太子と、皇太子の弟、第二王子が無表情で立っている。第二王子はその容貌から冷たい印象を与えがちだが、頭がよく、兄の皇太子王子よりも跡継ぎにふさわしいともっぱらの評判だ。
 パン屋の娘の姿はなく、それ以外の三人の女が並んだ。花嫁候補達はそれぞれ金糸の袋、絹の袋、麻の袋を片手に、王様に恭しく礼をする。
 ミギーヌはシンデレラが来ていることを確認すると、第二王子の方をかすかに見て、自慢の髭をさすって見せた。

 第二王子には企みがあった。自分の兄を皇太子から引きずり下ろし、自分が皇太子になるという企みが。
 鈍い兄に比べ、弟は小さなころから賢くて努力家だった。よりよい国を作ろうと帝王学だけではなく、商業も農業も外国語も積極的に学んだ。そして悟ってしまった。自分はいくら努力しようとも第二王子でしかなく、王様にもなれないし、王国を栄えさせる役割も担えないと。絶望に打ちひしがれているときに、近づいてきたのが敏腕行政家のミギーヌだった。ふたりは意気投合するのに時間は掛からなかった。そんな矢先に、ガラスの靴で花嫁を決めようとする皇太子の愚行が起こったのだった。

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