玲子が目の前で力強く拳を突き上げた。
「3回目……すごいですね。うちは娘が母の日だからって、チケットをプレゼントしてくれたんです」
「あらぁ~それは親孝行な娘さんね。羨ましいわ」
雅子は玲子と顔を見合わせて笑った。
玲子のおかげで緊張して強張っていた気持ちが、少しずつほぐれてゆく。同世代のジュンのファン同士、すっかり意気投合した二人がお喋りに花を咲かせている間に、バスはジョーが開催される温泉ホテル『るりるり』に到着した。
「うわぁ……広いロビーねぇ。それに大きなシャンデリア。こんなところに来たの、本当に久しぶりだわ」
ホテルのロビーに足を踏み入れると雅子は思わず感嘆の声を上げた。床には高級そうなふかふかの絨毯が敷かれ、大理石のオブジェや大きな花瓶に生けられた色鮮やかな花、そして壁に掛けられた芸術的な絵画が一体となってツアー客を歓迎してくれた。
「さぁ、まずは温泉に入ってのんびりしましょうか」
「そうですね」
雅子は慣れた様子の玲子に誘われるままに、大浴場へと向かった。まだ到着したばかりで少し慌ただしいけれど、なんせ日帰りのツアーなのだから仕方がない。
今日は日曜日なのにオフシーズンだったせいか、お風呂はほぼ貸し切り状態だった。ツアーの客はご夫婦で参加されていた方以外は全員女性だったので、男風呂はもっとすいているはずだ。
女風呂には内風呂が二つ、外には大きな岩を配した広い露天風呂があった。雅子は久しぶりにゆったりと温泉に浸かって、命の洗濯を楽しむことができた。
風呂から上がった雅子は脱衣所で着替えながら、それとなく他の入浴客の下着をチェックした。やはり同年代の女性のパンツには、色気も可愛らしさの欠片も無い。あるのは機能性と尻を覆う布の面積だけだ。
その事実に、雅子は心の底から安堵した。
でもそれと同時に、何故か一抹の寂しさも感じる。雅子はこの日の為に用意したおニューのパンツを腰の高さまで引き上げながら、思いがけない感情の揺らぎに一人、戸惑うばかりだった。
「カンパーイ!」
掛け声と共に、広い食堂のあちこちでジョッキがカチンと合わさる音が響いた。
「プハーッ! やっぱり温泉はいいわねぇ!」
よく冷えたビールを一気に胃の中に流し込むと、雅子は思わずひとりごちた。