小説

『主婦とスキャンティ』緋川小夏(『シンデレラ』)

 ビンゴ大会は大盛況のうちにお開きとなり、再びジュンの歌謡ショーの後半戦が始まった。懐かしいメロディが胸に沁みる。しばらくしてジュンがマイク片手に唄いながら観客席へと下りてきた。観客は我先にとジュンに群がり、あらかじめ用意しておいた花のレイを次々にジュンの首にかけた。
 解説しよう! このレイはあらかじめひとつ500円ほどで販売されている、いわゆる『おひねりレイ』ってヤツだ。このレイの売り上げは、そのままジュンの収入になる仕組みになっている。
 顔が見えなくなるくらいたくさんのレイを首に掛けられたジュンがデビュー曲を熱唱する頃には皆、トランス状態に陥っていた。ジュンと観客が一体となって、雅子も声が枯れるまで共に唄い、踊った。こんなに熱く弾けたのは本当に久しぶりだった。

「ああ……今日は楽しかった。なんだかまだ胸がドキドキしているわ」
 帰りのバスの中。雅子は頬を紅潮させて思わず呟いた。
「楽しかったわね~。ねぇ雅子さん、良かったらまた一緒に行きましょうよ」
 同じように興奮冷めやらぬ玲子も、瞳を潤ませながら大きなため息をついた。
「そうね。また、ぜひ!」
 本当に夢のようだった。
 ジュンと一緒に過ごした時間は、これからもきっと自分にとっての宝物になる。そんな予感があった。枯れかかっていたエネルギーが再び、体の奥から勢いよく湧いてきたような気がする。それまで抱いていた憂鬱な気持ちは嘘のように消え去って、厚い雲の切れ間から明るい陽射しが差し込むような、そんな清々しい気分だった。
「そういえば玲子さん、ビンゴ大会の賞品は何だったの?」
「あたしは赤ワインだったわよ。雅子さんは?」
「いいなぁ~。私は参加賞だったから……たぶんハンカチだったみたいだけど」
 ビンゴ大会の賞品は先着10位までで、玲子は8番目だった。結局、数字が揃わずにビンゴが完成しなかった参加者には、キレイにラッピングされた参加賞が渡された。
 思い切って行って良かった。雅子は心の底から遥香に感謝した。
 帰りの車内は皆、疲れ切って爆睡していた。いつの間にか玲子も隣の席で、大口を開けたまま気持ち良さそうに眠っている。雅子も満ち足りた気持ちで、静かに打ち寄せる眠りの波にそっと身を任せた。

「ただいまぁ」

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