「どうだい俺の話は、面白いだろ?」と猫は鼻先をツンと伸ばして得意げだ。
「……どの辺が爽快な話なんだ?」と戦車が言った。
「えっ? 何かスカッとしないか? 男が撃たれた瞬間とか、人間て奴の本質を言い当ててる所とかさ」
「爽快というより憂鬱になる話だったぞ。気分も重くなり、このわしの重い車体が更に重たくなり地面に更に沈み込んだわい」
「いや沈み込んだんじゃなくて、爺さんが崩れかかってんだよ。錆だらけですっかすかの癖に。重たくなったなんて錯覚、錯覚」
「何だとっ!?」
怒る戦車に、その上で高笑いしている猫。その二人の姿を見てカカシは羨ましく思った。
「お二人とも凄いですね。色んな経験をなさってて、お話も面白いですし……私には無いです。そんな誇らしげに語れる事なんて」
「そんな事ないしょ? 何か語ってみなって」と猫が言った。
「ええ!?」とカカシは戸惑った。
「そうだ、そうだ。始めから旨く語ろうなんて思わなくていい。何か君が感じた事を、経験した事を話せば良いんだ。恥を掻いたって、今はわしら二人しかおらんのだから」と戦車が促した。
カカシは暫く仰向け見て広がる紫色の空を眺めながら悩むと、何かを思い出した様だった。
「えっと……僕が見たというか、お逢いした人の話なんですけど……」 カカシは恥ずかしながらも語り始めた。
私は麦畑の番人として主人に作られました。広大にある畑にたった一体の私。主人の気まぐれで作られたと言ってもしょうがないです。
最初の頃は鳥達に恐れられていたものの、何も出来ない私の正体が分かると、もう目の前で麦の芽を突いてしまっている程。
主人からは役立たずと揶揄される始末。
でも私はそれでも良かったんです。それからの私の話友達は鳥達になったのですから。
四季の折々を見つめ過ぎる時間。高揚する事は無いものの、退屈ではありませんでした。でもその平穏な環境は長くは続きませんでした。
あの内戦。私の目の前でも戦闘は起きました。麦を薙ぎ倒してゆく装甲車、息を切らせ必死の形相で走ってゆく兵士。
人と見間違われて私もライフルで撃たれて倒れた事もありました。何だカカシかよと言われましたが、その兵士さん、倒した私をわざわざ立て直してくれてましたよ。