大戦末期の話だ。わしの所属していた機甲部隊が、ここの平原に似た土地で敵と相対し時。
見晴らしが効く為に歩兵による白兵戦前より、戦車戦への様相に。
大砲抱えたキャベツ野郎共の重戦車相手に、足の速いわしら戦車隊は奴らをきりきり舞いにしておった。
だが戦車は戦車だ、品のある乗り物ではない。右に左に操舵すれば、中にいる兵士達も右往左往。平地と言っても上品な石畳ではない、起伏の激しい土壌。頭を打ち付けんばかりに激しく跳ねる。
前日に呑み過ぎたら吐き気も倍増。ましてや新米の兵士にとっては試練の類いだ。
わしに乗っていた砲手は正に三等兵だったわい。
真っ青になる三等兵を見て同乗する車長が言いおった。
――どうした三等兵。元気がないぞ!
――心配ご無用です隊長! この顔色は生まれつきです。
――そうか三等兵。戦いはこれからだ、頑張れよ!
この三等兵、馬鹿なのか真面目なのか弱音一つ吐かない。目上の人間にも逆らわない性分ときたもんだ。
逆流寸前の胃袋を押さえ、必死になって砲弾を敵に撃ちまくる。
だがそれも戦闘の過酷さが末期の時だ。もう駄目だ、もう我慢の限界だ。
そうなった時、三等兵は意を決した様な顔をすると車長に向かって敬礼しながら声を上げた。
――隊長! 私から話があります!
――どうした三等兵! 言ってみろ!
――搭乗前に隊長は吐くのは我慢しろ、死んでも我慢しろ、吐いたら罰則もんだと言っておられました!
――そうだ三等兵。確かに言った!
――私には命令は絶対です。命令を遂行する事が私の生き甲斐と言っても過言ではありません、隊長!
――そうだな、よく知っているぞ三等兵!
――でも私は今、生まれて初めての違反をしようと思います! どうか許して下さいとの詫びと供に、私の違反ぷりっを見届けて下さい! ゲロゲロゲロ~!
立派なご高説の後、三等兵は溜まっていた物を思いっ切り流し出す。その姿を見て車長も言い放った。
――よくぞ言った三等兵! 見事な吐きっぷりだ三等兵! 実は私も我慢していたんだ! ゲロゲロゲロ~!
二人が思いっ切り吐き散らす。その酸っぱい匂いと音が車体に立ち込めると、同乗していた操舵手も装填手も吐き出した。
ゲロゲロゲロ~。
四人のゲロの和音が車両内部に響き渡る。