小説

『埋葬猫』山田密(『累が淵、鍋島の化け猫』)

 美人で明るくていい女だったなあ。初めはスケが俺から離れないのを怒っていました。どこに行くにも付いて廻るし、座ると必ず膝に乗ってゴロゴロ喉を鳴らしてこう懐かれると可愛くなりましてね。
 バカですよたかが猫に嫉妬していたんですから。このスケをとにかく嫌っていた。いや怖がっていたのかな。
「スケが私を嫌ってる。私を殺そうとしているから捨ててきて」って何度も云ってましたよ。スケが横を通るだけでビクビクしていたんです。私もあんまりスケを嫌われると面白く無くて。
 その後は面倒なんで結婚はしませんでしたが、一緒に暮らした女たち皆、何だか皆猫嫌いでいつの間にか家から出て行きました。そうだ僕が原因じゃなくスケのせいですね。

 こんな事云うとおかしいと思われるかも知れないけど、さすがにスケが何かしたんじゃないかと思う時があるんですよ。ハハ、おかしいでしょ。この話は止めます。えっ、訊きたいですか? 判りましたじゃあ話ますけど本気に取らないで下さいね。
 この家に来た当初は皆、スケを可愛がっていたのに、スケが気まぐれでちょっと気性が激しいのもあるかもしれないけど、暫くすると皆がスケを嫌がるようになるのは、スケに何か有ると思うのは当然でしょ。
 実は同じなんですよ。三番目の妻の死に方がね。類の兄タイスケとです。タイスケは夫と死別して未亡人だった母親の連れ子だったそうです。その前に類の父親には二人嫁がいたらしいですけど二人とも子供が出来ずに離婚されているんです。鍋島の家はなかなか子供が授からない家系なのかもしれません。既に男の子がいる女を嫁にしたんですがね。
類の母親はそれは評判の美人だったようですが、息子のタイスケは足が悪い上に見てくれも悪かった。写真を一度見た事があるんですが、これが類にそっくりなんですよ。
 暫くして母親が類を身篭ると、タイスケは雪解けで水かさが増した畑の用水路でうつ伏せになって死んでいる所を発見されたんです。足が悪い事もあって足を滑らせ落ちたんだろうってことでしたが、日頃母親が用水路には近付かないようにうるさく云っていたのに用水路で死んだ。類の母親は夫と舅姑が殺したと思っていたようです。何しろ嫁イビリが激しくその上三人はタイスケを酷く嫌っていたようですからね。
 どうしてそんな嫁を貰ったのかって? もちろん美人だったからと既に子供を産んでいる女だから直ぐに妊娠するだろうと考えたみたいですよ。父親が違えばそれなりの器量を期待したんでしょうが、生まれて来た類はタイスケにそっくりだった。まさかその当時母親が整形していたとは思えませんけど、まあそれでタイスケと同類と云う意味で父親達が腹癒せのように類と名付けたらしいです。まあタイスケと同じような目に遭わせるかもしれないと云うメッセージを籠めたのかもしれません。
 そうそうタイスケが死んでいた傍らに一匹の黒猫が座り込んでいた。追い払ってもタイスケの遺体の周りをウロウロして離れず、結局家に居付いてしまった。そこで類の母親が死んだタイスケの魂が宿っているに違いないとスケと名付けて可愛がるようになった。その猫は死ぬ事無くずっとこの家にいて類を守っている。それがこのスケです。類はこの猫をずっと同じスケだと云っていました。

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