小説

『埋葬猫』山田密(『累が淵、鍋島の化け猫』)

「たとえそうだとしても、猫を殺人犯には出来ないだろ。その猫は首を切られて焼け死んでるんだからな」
「でも、あの猫なら死んでもまた誰かを殺せるかも。類が最後に大丈夫と云ったのは、死んでもまた戻って来るから大丈夫と云う意味じゃ。現に類は鍋島の傍にいるみたいでしたから」
「おいおい、いい加減しろよ! 早く帰るぞ。こんな所にいたらこっちまでおかしくなる」
「鍋島はきっと死ぬまであの家に居るんですね。あの猫と最初の妻の類と一緒に。何だかちょっと」
「おい! 振り返るな。行くぞ! こんな所二度と来るのはごめんだ」
「警部、置いて行かないでくださいよ」
 鬱蒼と茂る木々に覆われるように立つ三階建ての病院の白かった壁は、長い間碌な手入れも去れず風雨に晒され薄汚れ、玄関以外の窓には全てに鉄格子が嵌められている。都心から外れているとは云え通りに出れば車や人が多く行き交う街の中、それなのにそこだけが現実から隔離された異質な空気に満ちているのは、精神を病んだ異空の住人たちのエネルギーに覆われているからか。
 二人の刑事は引きずり込まれまいと逃げるように、自分たちが信じる現実の世界へと足早に遠ざかって行く。その背中を吾郎は片目が潰れた黒猫を抱いて、窓辺に立ち鉄格子の隙間から見送り呟く。

 ああ、いいなあ、あの人たちは町のスナックに行くのかなあ。無理だよスケ、類が帰って来たから…もう僕は行けないよ。

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