小説

『ベーカリー ヘクセンハウス』鳩羽映美(『ヘンゼルとグレーテル』)

それから、「今日から働いてもらうよ。まずはその汚い身なりをなんとかしといで!」と言われ、私は店から追い出された。
背中越しに「若い働き手が必要だったんだ。やっぱり餌付けは効くねぇ」と聞こえた気がしたが、はたして。
とにかく私は慌てて家に帰り、シャワーを浴びて、乾かした髪をひとつに結んだ。
そして家を出ようとして、ふと気がついた。
今日は金曜日。燃えるゴミの日だ。
私は可燃ゴミの袋を引っつかみ、部屋に散らばるお菓子の袋や弁当の容器を詰め込んでいった。

分かっている。
私を閉じ込め、太らせ、頭から食べようとしている魔女は私だ。
でも私は、私自身をかまどに押し込めることはできない。自分のなかの魔女と付き合いながら、なんとかかんとか生き続けるしかない。
でもせめて、ゴミくらいは捨てなくちゃ。
ドアを開けると、眩しい朝日が目を焼いてくる。
それでもお腹の底からあったかいものが湧き出してくるようで、私は可燃ゴミの袋を揺らしながら、ゴミ捨て場に向かって走った。

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