手のひらが震える。その冷たさのせいで、パンの温度がみるみる下がっていくような気がした。
あぁ、せっかくこの人が作ったパンなのに。
そんなことを思っていたら、老婆はじっと私の目を見たまま、こう言った。
「そうかい」
さらりと、いつもどおりのしわがれた声で、なんでもないように。
「え……」
「私はあんたのことを知らないけど、あんたがそう言うならそうなんだろう」
「……」
「なんだい、なにか言って欲しそうな顔して」
老婆は意地悪そうに笑って、言葉を続けた。
「あのね、あんたの腹が出ていることは見りゃ分かるけど、あんたがどういう人間なのか、その腹のなかでなにを思っているのかなんて、人には分かりゃしないさ」
「……」
「あんたの言ったことが、そのまま、本当のことになるんだよ」
言葉が、身体のまんなか目がけて落ちていく。
そしてそれはどこかに飲み込まれることなく、すとんと着地して、じわじわと熱を持った。
老婆は笑ったまま、楽しそうに言う。
「あんた、ここで働きな」
「……え?」
どうしてそうなる。
「だいたい、家にこもってるからそんな辛気臭い顔になってぶくぶく太るんだよ!若いんだからちゃきちゃき働きな!」
「いや、え?あの、私こんなんだから接客とかできないし、ていうか料理もできないから、あの……」
「いーや、あんたは働くね。私には分かる」
「え……」
「私の言ったこともね、本当になるんだよ」
魔女だからね、と、老婆は黒いワンピースの裾をはためかせる。
自覚があって着ていたのかと、私は少し笑った。