小説

『百本の芍薬』末永政和(『百夜通い』『夢十夜』)

 陽が沈み、月がのぼるのをただ眺めながら、百年を待ち続けたのだ。しかし芍薬の花は、二度と咲いてはくれなかった。あと一本を受け取れば、少将の願いは成就するのだ。あとひと夜、あとひと夜と思いながら日を重ねてきたが、自分はもうあきらめて、果てるべきなのだろうか。
 無論旅人に答えなどない。無言でかぶりをふって、その場を離れるだけだった。
 その後老婆がどうなったのか、確かなことは分からない。旅人が去って後も塚を守り続けたところ、やがて石の下から青い茎が伸び、蕾をつけ、ふっくらと真白の一輪を開いたとも伝わっている。花びらにぽたりと落ちた露は、老婆の涙であったろうか。

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