スパァーン
物体の激しくぶつかる音が聞こえた。私の歩いている横で野球部のピッチャーが投球練習をしている。さっきの音は、ボールが高速回転してキャッチャーミットに吸い込まれていく音だった。野球部の練習している場所は校門から下駄箱に向かう道の側にあるので、登校中の生徒から注目されやすかった。
ボールを受け取ったキャッチャーがピッチャーへ返球した。山なりの緩いボールだ。しかし、ピッチャーはそれを取り損ねた。
しっかりしろ、キャッチャーの低い声が聞こえた。
はい、すみません、ピッチャーは帽子を脱いでキャッチャーの方へ一礼した。どうやら、キャッチャーが先輩で、ピッチャーは後輩らしい。
白球が私の方へ転がってきた。ピッチャーがやってきて、私の目前でボールを拾った。私はその光景を、苦々しい表情で眺めた。
小学生のころ、父親の転勤でクラスメートの男子が遠くへ転校することになった。その男子はクラスの中で一番身長が低く、運動神経が悪かった。しかし、野球が大好きだったので、皆でボールを購入し、寄せ書きをして贈ろうということになった。クラスメート全員が書き終わり、たまたま最後に書くことになった私が当日まで保管することになった。
当日の朝、テレビでの天気予報は晴れ、窓から見える空も雲一つない青空だった。しかし、天気予報のあとにやっていた占いのコーナーで、私の本日のラッキーアイテムは傘だと言われた。傘? こんなに晴れているのに? 当時の私は占いを信じずに学校へと向かった。けれど、途中で予想外の出来事が起こった。
ちょうど自宅と学校の中間を歩いていたときだ。それまで快晴だった空は突如雨雲に覆われ、南国のようなスコールが降り始めた。一旦家に戻ると遅刻になってしまうので、私は豪雨の中走って学校を目指した。
授業が全て終わり、下校直前のホームルームで転校する彼が挨拶を済ませた。そして、私が寄せ書きを書いたボールを渡すときがきた。
「あっ」
そのとき、私は愕然とした。皆で書いた寄せ書きが、黒く滲んで読めなくなっていたからだ。寄せ書きは全て水性のペンで書かれており、私が登校中雨にうたれてしまったせいで、文字が黒い模様に変化してしまったのだ。
ボールを贈るのはホームルームの終わりに予定されていたため、新しく寄せ書きをする時間はなかった。結局、彼は字の読めなくなったボールを受け取り、クラスメートたちは彼を送り出した。そして私はその件がきっかけで、クラス替えが行われるまで一部のクラスメートたちからひどい扱いをされるようになってしまった。
それ以来、私は自然と人との関わり合いを避けるようになり、毎朝占いをチェックしてその通りに行動しないと、不安を抱くようになった。