小説

『ハッピーエンド』浴衣なべ(『わらしべ長者』)

 昼食時、クラスメートたちは午後までの短い時間を昼食や友人との会話で楽しむ。一方で、教室に居場所のない私は、一人で過ごせる場所を求めて廊下へ出た。
 一人でゆっくり食事がとれる場所を常々探していた。学生食堂は教室と同じで騒がしいのでダメ。図書室は飲食が禁止されているのでダメ。消去法で私が辿りついた場所は、人気のない学校の校舎裏だった。
「あれ?」
 コンクリートの段差に座って弁当を食べていると、足元にたばこの吸い殻が落ちていた。どうやら、この場所には既に常連がいるらしい。せっかく見つけた場所だったけれど、諦めた方が良さそうだった。
 私は溜息をつく一方で、別のことを考えていた。
 そういえば、朝の占いでこう言われていた。本日のラッキーアイテムは「タバコ」だと。私はタバコを吸える年齢ではないし、家族に喫煙者はいない。どうやってタバコを手に入れようかと悩んでいたが、これはちょうどいい。この場所を借りたお礼も兼ねて掃除しておこう。
 私は弁当を食べ終わると、ティッシュを取りだして膝の上に広げた。そして、吸殻を一つずつ摘まみ上げた。火は完全に消えている。私は吸殻を全て拾い上げるとティッシュを丸めてポケットに突っ込んだ。
 この場所から離れるため立ち上がろうとすると、遠くから人の声が聞こえてきた。
「だから吸ってないって」
「嘘つけ。制服からタバコの匂いがするぞ」
「うわっセクハラだ」
 言い争う声はだんだん大きくなってきた。それに伴い、私の不安も膨らんでいく。やがて、二人の人間が現れた。
 一人は生活指導の先生、もう一人は同じクラスの山田さんだった。
「誰だお前は」
 生活指導の先生が私に質問する。隣にいる山田さんも、口には出していないが同じ疑問を抱いているのが分かった。
「とりあえずそこをどけ」
先生にそう指示されたので私は跳ねるようにその場から離れた。
「あるはずなんだ」
 そう言って先生は地面に顔を近づけた。隣で山田さんがなにやらそわそわしている。なにかを探している先生を見ていて気がついた。先生は、山田さんが残したであろうタバコの吸殻を探しているのだ。しかし、さっきまで転がっていたタバコの吸殻はもうない。私が片付けてしまったからだ。
「おかしいな」

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