小説

『飼育』植木天洋(『人魚姫』)

 そうだ、昆布、買い足さないと。ええと、どれくらい買えばいいのかな。昼間に甘やかしたせいで、先輩にもらった在庫はすでにかなり消費している。今日のうちに行っとくか。財布を握りしめると、近くの業務スーパーへと自転車をとばした。
 店員に聞いて売場へいくと、大袋に入った乾燥昆布がずらりとあった。なるべく安くて大量の昆布をと思ったが―—1袋280gで1,370円本体価格! マジか! こんなに少しの量で? いや、水でふやかせば増えるから、いいのか。思い切り「業務用」と書いてあるけど、これは安いのか? 高いのか? いまいち分からなくて悩ましい。
 それから思い出して、臭い消し用の氷―—業務用を大量購入した。こちらは単価は安いけど、量が半端じゃないので結局高くついた。しかも滅茶苦茶重い。
 昆布と氷を山ほどつめこんだカゴを両手で引きずるようにしてレジへいって精算をして、改めてその合計額に崩れ落ちそうになった。
 この調子で一週間も彼女の面倒をみていたら、ささやかな貯金が吹っ飛ぶ。とはいえ命を助けられたのかと思うと、多少の無理は仕方がない気もする。
 イヤ待て、そもそも預からなければこんなことになってないのか?
 やっぱり領収証はすべて先輩宛で!
 なんとか荷物をアパートへ持ち帰り部屋へ戻ると、魚臭さも少しマシになっていた。というか、もはや鼻が慣れたのかもしれない。
 静かなバスルームを音を忍ばせて覗くと、顔を半分水に沈めて、あどけない顔で眠っている彼女がいた。胸元にはカエルのオモチャを抱きしめている。艶のある黒髪が、幻想的にゆらゆらと揺れて広がっていて、僕は思わずみとれてしまった。なんだかちょっと・・・・・・いや、かなり可愛い。
 はあ。
 まあ、こういう生活もちょっぴりいいかな。
 ・・・・・・
 いや、あくまで「ちょっぴり」ですからね、先輩! 早く帰ってきてくださいよ!

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