小説

『戦にまつわる干支セトラ』小塚原旬(『十二支のはじまり』)

 ムカつく!
ムカつく、ムカつく、ムカつく!あの意味不明に過剰なつけまつ毛を引っペがして、鼻の穴に突っ込んでやろうかしら。
「ほな、パイセン、私もそろそろ行かへんと」
 言いたいこと言って、園子は隣のトラックに飛び移った。まずい、また順位が落ちる。
「待て……」
 そう言いかけて飛び出そうとした私の足元に、何か金属製のものが飛んできた。
「何これ?」
 私がそれを拾い上げようとすると、驚くなかれ、それはくないだった。
 そして更に一つ飛んできて足元に刺さる。慌てて後ずさる。
 そしてまた一つ、二つ。
 これって武器の使用じゃん……一体、誰が?
 その疑問はほどなく溶けた。
 大きなプロペラ音、加えて強風。
 飛来してきたのは大きなヘリコプター。そしてその真下に逆さまに立ち尽くす女の影。
「マジか」
 鳥の代表選手、姫野(ひめの)うずらの登場だった。


「武器の使用は禁じられていたはずですけど!」
 姫野さんは何も答えずに、またくないを飛ばしてきた。何なのよ、本当に!
 日本人形のような黒髪と白い肌、現職の自衛官の選手だったと思ったけど、とても若く見える。彼女の顔立ちは可愛らしかったが、表情まで日本人形のようで、どこか不気味だった。
 ヘリコプターがゆっくりとこちらに近付き、私は風圧で尻餅を付いた。そして気付いた。もう後ろはない。振り返るとアスファルトが猛スピードで後ろへと流れていく。
 そこに更に撃ち込まれるくない!
 私は意を決してトラックの荷台から飛び降り、そしてその側面に両手の磁気引力で張り付く。
 ヘリコプターはトラックを跨いで逆サイド、つまり私の張り付いている方へと飛来した。まずい、マジで。
「首尾はどないや?」

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