小説

『戦にまつわる干支セトラ』小塚原旬(『十二支のはじまり』)

「あらあ?また新しい彼女ですかあ?」
 天然系肉食獣、ふんわり空気にほんわかおっぱい、男から愛され、女から疎まれる典型、千葉県出身B型女子大生、牧場(まきば)羊子(ようこ)がのんびり口調で話しかけてきた。何故か大型バイクの後ろに跨っている。勿論、羊の代表選手。
「ようk……牧場!」
 あれ?今、下の名前で呼ぼうとした?したよね?
何も知りたくないし、聞きたくないんですけど。
「乗り物に乗るのは禁止だったはずだぞ」
「勿論、知ってますよう?これは、引力を使っているだけですよ。ほうら、早いでしょう?」
 牧場先輩は胸をライダーの背中に押し付けた。ライダーが速度を上げた。
「何じゃ、ありゃ」
 呆れた私もペースを上げた。
 先輩と私は車を飛び飛び、バイクを追い掛けた。
「あははは!速い速い!頑張って~!」
「負っけるかよ!」
 先輩は更にハイペースに。感情が露わになって、明らかにペース配分が狂わされている。この後、スカイツリーを登らなきゃいけないのに大丈夫かしら?
 私はさすがにペースを落とした。
 ムキになって追いかけっこを始めた先輩の背中を、私は見えなくなるまで見送った。
 さよなら、私の初恋……。


 東京スカイツリーを見上げても、何の感慨も起きなかった。
 ここからが最終局面、地上634mにあるゴールを目指して走って行かなければならない。
 ソラマチを飛び越し、ツリー側面に重力場を生成させながら走っていく。
 足にもかなり来ていたが、問題はGデバイスのバッテリーだった。
 残量12%……この距離を走破してギリギリだろう。姫野さんとの戦いで、かなり消費してしまった。
 でも苦労した甲斐あって、順位は現在1位。

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