小説

『戦にまつわる干支セトラ』小塚原旬(『十二支のはじまり』)

 頭上から声がして上を向くと、そこには猿の代表選手、猿田(さるた)彦摩(ひこま)呂(ろ)。髭面で猿顔の、これも社会人選手。この二人もグル?それにしたって、ルール無視で武器にヘリコプターを使用するなんて、こいつら何なの?
「おう、姉さん、生きとったか。えらいすまんなぁ、ちょっと手荒やけどな、干支の順にも物の道理っちゅうもんがある」
「それを選び直す為の、政府公認のレースだったんじゃないの?」
 私は強風に煽られながら、必死に叫んだ。
「そらな、現行の政府の勝手な都合や。この国にはこの国固有の文化、伝統、信仰があるんや。勝手な事しとるのは、政府の方やで。姉さんには恨みはないが、猫にはここで脱落してもらうわ」
 猿田の口調は柔らかかったが、目は真剣そのものだった。トラックの荷台の脇に張り付いたままの私は、文字通り手も足も出ない状態だった。目の前でヘリにぶら下がる姫乃さんが新しいくないを取り出した。上を向くと猿田がこちらにGグラブを向けていた。斥力で私を吹き飛ばす気らしい。
 待ってよ!こんな所から落ちたら、私……!


 頭上で叫び声が聞こえて、私は目を開けた。
姫野さんが驚いた表情をしている。何?何なの?
「内野、大丈夫か!」
 荷台の上から顔を覗かせたのは犬飼剛だった。
「剛、あんた、どうしてここに?」
「犬と猿は仲が悪いからな、軽く噛み付いてやった。そんなことより、早くしろ!もうすぐ高速の分岐だ!このまま湾岸に入ったら、もうリカバリーできないぞ!」
 気付くと、トラックは左レーンへと移っていた。
「分かった、剛は先に行って!」
「お前はどうするんだ!」
「鳥を地面に叩きつけてから、すぐに行くから!」
「気をつけろよ!」
 そう言った剛が誰かに殴られたのが見えた。
「あかんわ、兄ちゃん。大人の邪魔したらあかん」
 猿田だった。くそ!

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